2022.02.03
【スタッフコラム】馬場・オブ・ザ・デッド by牛
第5回「映像の魔術師、そして家」
ただいま当館では2020年に亡くなった大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』を上映中です。冒頭から凄まじいエネルギーに圧倒されるこの作品。“映像の魔術師”の異名を持つ彼の集大成となる大傑作ですので、是非劇場で観て頂きたい作品です! さて、今回のコラムでは、そんな大林宣彦監督の作品から1本ご紹介したいと思います。大林監督のホラーといえば、多くの人にトラウマを植え付けたであろうあの作品、『HOUSE ハウス』です。
私がこの作品と出会ったのは学生の頃、空き時間によく訪れていた図書館の視聴スペースでした。映画に全く疎かった私は、ジャケットなどを見て完全に直感で選ぶことが多かったのですが、その時も特に観る作品を決めずになんとなく棚を眺めていました。その時、列の中に一つだけ妙な隙間があったのです。取り出してみると、それだけなぜかCDケースに収まり、他とは明らかに異彩を放つジャケットだったのを今でもよく覚えています。嘘みたいに真っ青な空と怪しげな家のイラストが描かれ、真っ赤な背景に不気味な“HOUSE”の文字。これは観てもいいものなのだろうか? という不安に駆られながらなんとなく視聴したのが『HOUSE ハウス』との出会いです。
ストーリーはというと、女子高生のオシャレちゃん(あだ名。由来:オシャレだから)が、お友達たちと夏休みに祖母の別荘へ遊びに行くのですが、そこは生きては出られない恐怖のお屋敷で…というお話。とにかく私が度肝を抜かれたのは数えきれないほどの衝撃映像の数々。浮遊する生首! 人食いピアノ! ペルシャネコの口から噴射する鮮血! こんなに滅茶苦茶な映画は後にも先にもないのではないだろうかという衝撃を受けました。当時『JAWS/ジョーズ』が流行っていたからサメではなく家が人を食べる映画を撮ろう! という発想にも驚いてしまいます。子供の頃に観ていたら確実にトラウマになっていたのは間違いありません。
私は今でも「好きな映画は?」と聞かれると咄嗟にこの作品を挙げることが多いです。自分でもなぜ好きなのかと聞かれるとうまく答えられる気がしません。ただ、悲しい時や落ち込んだ時に、あの浮遊する生首や人食いハウスのことを思い出すと、すべてがどうでも良く思えるのです。そんなことを思いながら、『海辺の映画館~』のポスターに描かれた大林監督の笑顔を見て少しだけ寂しく感じる今日この頃なのでした。
(牛)