2024.07.18

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

『インフィニティ・プール』と不穏な音楽

先日、当館ではブランドン・クローネンバーグ監督の『インフィニティ・プール』と父親であるデヴィッド・クローネンバーグ監督作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』の二本立てを上映しました。監督親子の作品を並べて鑑賞するというのは初めての経験で、デヴィッド監督作は「これぞ」というような美術や小道具に目を引かれながらも、どこかシンプルで淡々としている印象(そこが魅力!)を受ける一方、ブランドン監督作はよりデザイン的かつ視覚的なエフェクトにも注力していて、「似ているようで似てないな」なんて思いました。

それは映画内で使われている音楽にも表れていると感じていて、『インフィニティ・プール』では映像だけでなく、音楽の効果も重要な役割を担っていたように思います。音色や音の配置、質感から形作られた音楽は、不穏で緊張感が漂っていて、この先にある危険な出来事を予感させられながらも、どこか妖しく引き込まれてしまうような感触があり、とても素晴らしいです。こちらの音楽を担当したのはカナダのミュージシャンであるTim Heckerという人で、アンビエント/ドローンというジャンルが好きな音楽ファンの中ではかなりの有名人らしく、2011年に発表した『Ravedeath, 1972』というアルバムは、カナダのグラミーと呼ばれるジュノー賞も受賞しているそうです。

さて、彼のディスコグラフィを確認していると「Love Streams」という、目を引くタイトルを発見しました。「ラヴ・ストリームス」と言えば、ジョン・カサヴェテス監督の映画だよな、と思い、Tim Heckerのインタビューを確認してみるとやはりカサヴェテス監督作からの参照だそうです(ちなみに早稲田松竹では『インフィニティ・プール』の前の週に『ラヴ・ストリームス』を上映。偶然です)。こちらのアルバムを聞いてみると『インフィニティ・プール』のサントラのような不穏さや妖しさはなく、電子音とアナログな楽器の音、声などが配置された音空間にはどこか寂しさや懐かしさを感じました。あの時に感じたあの気持ちという漠然としたものを思い出すかのようです。皆さまも是非、この二つの作品を感じ比べ(?)てみてはいかがでしょうか。カサヴェテス監督作とはまた違う「愛の流れ」がここにはあるのかもしれません。

Tim Hecker『Infinity Pool (Original Motion Picture Soundtrack)』(2023)
Tim Hecker『Love Streams』(2016)
Tim Hecker『Ravedeath, 1972』(2011)

(ジャック)