<ジョン・カサヴェテス PROFILE>
1929年12月9日、アメリカのニューヨークで生まれる。妻は女優のジーナ・ローランズで、長男のニック・カサヴェテスと次女のゾエ・カサヴェテスは映画監督として活躍。
テレビや映画で俳優としてのキャリアを積んだ後、出演したラジオ番組中の呼びかけで集まった資金を元手に製作した『アメリカの影』(1959)で監督デビュー。1968年、第2作の『フェイシズ』でアカデミー賞3部門(脚本賞、助演男優賞、助演女優賞)にノミネート。1974年の『こわれゆく女』ではジーナ・ローランズがゴールデングローブ賞最優秀女優賞(ドラマ)受賞、アカデミー賞主演女優賞、監督賞にノミネートされる。1977年の『オープニング・ナイト』ではベルリン国際映画祭でジーナ・ローランズが主演女優賞に輝き、1984年の『ラヴ・ストリームス』では同映画祭で金熊賞を受賞している。
自らが俳優として得たギャラを製作費として注ぎ込みながら、素人とプロの俳優を共演させるなど、大手スタジオの介入がない自主製作による映画作りを信念とし、独自の映画世界を切り開いた。“インディペンデント映画の父”と呼ばれ、後世の映画監督たちに大きな影響を与えると存在になる。
1989年2月3日、肝硬変のためロサンゼルスの病院にて59歳で他界。
おまる
『ラヴ・ストリームス』『こわれゆく女』という今回と同じ組み合わせの二本立てを、10年ほど前に早稲田松竹で観ました。すごく大人っぽいポスタービジュアルの雰囲気に惹かれて観た、はじめてのジョン・カサヴェテス作品でした。するとどうでしょう、映画に出てくるのはどうしようもなく不器用な大人たちばかり。目をひん剥きながら相手を罵倒したり、息子をほったらかしでカジノに行ったり、全然大人じゃない。そんな彼らを観ていたら、心と体はヘトヘトになり、頭は混乱状態。他者と本当に分かり合うって無理なのかもしれない。この二本の作品を観て、そんなことを思ったのを覚えています。
15年連れ添った夫と別れ、一人娘の養育権で協議を重ねる『ラヴ・ストリームス』のサラ。夫と3人の可愛い子供と日々を過ごしながらも精神のバランスを崩す『こわれゆく女』のメイベル。どちらも激しすぎる愛をもつ女性です。サラとメイベルを演じるジーナ・ローランズの予測不能な演技は、こちらをハラハラさせて緊張を緩ませることを許しません。シナリオとか演技といった次元を超えて、自分が何をしているのかも分かっていないんじゃないかと心配になってしまうくらいです。しかしそんな愚かで痛々しくも見える振る舞いが、ただひたすら愛を求める言動なのだと思うと、可笑しみと哀しみが混ぜこぜになってこちらに突き刺さってくるのです。
カサヴェテス作品で描かれる愛は現実的すぎるゆえに複雑です。映画が始まったときに散らかっていた夫婦や家族の問題が、終わりに近づくにつれ解決に向かっていくような簡単な話ではありません。こちらは登場人物たちの人生のほんの一部分しか見えていなくて、映画が終わる頃と始めの頃の状況はなんら変わってないようにも見えます。
他者の内面に潜んでいる“孤独”や“狂気”を理解するのは難しくて、近づいてもまた喧嘩してぶつかってしまうかもしれない。やっぱり分かりあうのは無理に近くて絶望もする。それでも一緒にいたい、相手の心に寄り添っていたい。これらの想い全部ひっくるめて“愛”なのだとしたら、全然大人じゃない大人たちの愛を求める姿が愛おしく思えてきます。
こわれゆく女
A Woman Under the Influence
■監督・脚本 ジョン・カサヴェテス
■製作 サム・ショウ
■撮影 マイケル・フェリス/デヴィッド・ウェル
■美術 フェドン・パパマイケル
■編集 トム・コーンネル
■音楽 ボー・ハーウッド
■出演 ジーナ・ローランズ/ピーター・フォーク/マシュー・カッセル/マシュー・ラボートー/キャサリン・カサヴェテス/レディ・ローランズ/クリスティナ・グリサンティ
■第47回アカデミー賞監督賞・女優賞ノミネート/第32回ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞(ドラマ)受賞・最優秀作品賞(ドラマ)・監督賞・脚本賞ノミネート
© 1974 Faces International Films,Inc.
【2024/6/15(土)~6/21(金)上映】
彼(カサヴェテス)と仕事をすること、それは自ら役者でもある監督に愛されることなの。 ――ジーナ・ローランズ
メイベルは専業主婦で、土木作業員の夫ニックや子供たちの世話をして暮らしている。夫婦はお互い愛し合っているが、家族を仕事場や学校に送り出したあと、ひとりで家に残されるメイベルの孤独感は強くなるばかり。
そんな彼女は、子供たちを彼女の母親に預け、ニックとふたりで過ごす“特別な1日”のことを楽しみに待っていた。しかし当日、ニックは仕事の都合で帰宅できなくなってしまう。その日から、メイベルの精神のバランスは一層崩れ始める。彼女が取り乱す理由がわからずうろたえるニックは、遂に妻を精神病院に入院させてしまうのだった…。
スクリーンに迸るローランズの狂気と美しさ、名優たちによる素晴らしい演技のアンサンブル!
壊れかけそうな家庭をどうにか繋ぎとめようとする夫婦愛を描いたカサヴェテスの代表作のひとつ。カサヴェテス、ジーナ・ローランズ、そしてピーター・フォークの3人が共同出資して作られた本作は、当初3時間50分もの大長編に仕上がった。それをもう一度見直して再編集したのがこの完成版。「私の映画はおとぎ話なんかじゃない」というカサヴェテスの言葉がこの映画の厳しさを物語る。鬼気迫る狂気と脆く崩れそうな女性を体現したローランズは、ゴールデングローブ賞最優秀主演女優賞を受賞した。
ラヴ・ストリームス
Love Streams
■監督・脚本 ジョン・カサヴェテス
■製作 メナヘム・ゴーラン/ヨーラム・グローバス
■原作・共同脚本 テッド・アレン
■撮影・製作総指揮 アル・ルーバン
■編集 ジョージ・ヴィラセノール
■音楽 ボー・ハーウッド
■出演 ジーナ・ローランズ/ジョン・カサヴェテス/ダイアン・アボット/シーモア・カッセル/ジェイコブ・ショウ/マーガレット・アボット/ミシェル・コンウェイ
■第34回ベルリン国際映画祭金熊賞・国際評論家連盟賞受賞
© MCMLXXXIV Cannon Films, Inc.
【2024/6/15(土)~6/21(金)上映】
愛は流れのようなものよ。決して絶えることはない。
ロバートは流行作家。ハリウッド郊外にある家で、秘書や若い女性たちと共同生活を送っている。彼は新作の取材で行ったクラブの歌手、スーザンに心をひかれる。ロバートの姉サラは、15年続いた夫ジャックとの離婚に踏み切り、1人娘デビーの養育権をめぐって協議を重ねている。
自らのナイーブな神経と激しい気性とのバランスがとれず、何度も精神病院へ入院を繰り返すサラの狂信的な愛情に、ジャックは窒息しそうになっていた。医者の勧めで気分転換に向かったパリ旅行でもサラの憂さは晴れず、彼女は久しぶりに弟ロバートの家を訪ねた。そこには、ロバートの先妻との子であるアルビーが預けられていて…。
愛、孤独、そして家族――カサヴェテスが生涯かけて描いた主題の集大成ともいうべき傑作!
他人を愛することに不器用ながらも、愛や孤独をテーマにした小説を書く弟と、その深い愛ゆえに狂気に陥っていく姉の内面の荒廃を描いた傑作。ベルリン国際映画祭において金熊賞・国際批評家連盟賞を受賞した。
サラはローランズがカサヴェテスの映画で演じた全ての女性を思い出させ、ロバートも彼の映画で描いた全ての男性を思い出させる。集大成といってよい作品だと言えるが、それは決して成熟や円熟という言葉とは無縁だというのがやはりカサヴェテスである。
【モーニング&レイトショー】グロリア
【Morning & Late Show】Gloria
■監督・脚本 ジョン・カサヴェテス
■製作 サム・ショウ
■撮影 フレッド・シュラー
■音楽 ビル・コンティ
■出演 ジーナ・ローランズ/バック・ヘンリー/ジュリー・カーメン/ジョン・アダムズ
■1980年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞/アカデミー賞主演女優賞ノミネート
【2024/6/15(土)~6/21(金)上映】
グロリア、あんたはすごい。タフで、クールで・・・・・・やさしいよ。
マフィアを裏切った会計士・ジャックは、サウス・ブロンクスのアパートで家族ごと命を狙われていた。彼の妻は、友人であるグロリアに、幼い息子・フィルの命を託す。マフィアの襲撃でジャックと家族が命を落とす中、アパートから逃走するグロリアとフィル。だが、ジャックはフィルに組織の秘密を記した手帳を渡しており、それを知ったマフィアはフィルの命を執拗に狙う。敵に対して躊躇なく銃を撃つグロリアは、フィルと共にニューヨークからの脱出を計る。
“ニューヨーク・インディーズの父”カサヴェテス×G・ローランズによる傑作ハードボイルド・アクション!
ニューヨークを舞台にしたハードボイルドアクション。監督夫人でもあるジーナ・ローランズが、マフィア相手に一歩も引かないタフな女・グロリアを熱演し、ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した。
カサヴェテスは、1954年にジーナ・ローランズと結婚し、‘89年に亡くなるまでに彼女の主演作を計6本監督している。この『グロリア』の商業的成功を受け、カサヴェテス監督は80年代後半に続編『グロリア2』の脚本も執筆していたという。この件は監督の逝去から25日後に発売された「シカゴ・トリビューン」紙の記事で言及されていたが、現在に至るまで続編の映像化は実現されていない。
(午前十時の映画祭より引用)