2023.11.23
【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック
シャンタル・アケルマン監督作の音楽
先月2週に渡って上映しましたシャンタル・アケルマン監督特集。以前こちらのコラムでも『オルメイヤーの阿房宮』(2011)のエンドロール曲について紹介させていただきました。2回の特集上映で感じたのですが、私はアケルマン監督がかなりの音楽好きだと思っています。ミニマルで落ち着いた作風の中、突然流れる音楽。自然と耳を傾けてしまいます。
今回の上映作品の中では『一晩中』(1982)のラストシーンあたり。男女が抱き合い、踊るシーンはかなり印象的でした。ここで流れている音楽はGino Lorenziの「L’amore Perdonera」という曲です。ゆっくりとした始まりから、言葉を少しずつ紡ぐように歌い始め、クライマックスに進むにつれて感情が高ぶっていくように歌い上げる音楽に、踊る男女の高揚を感じます。調べてみるとこの歌を歌っているのは「Louise」という曲で有名なGérard Berlinerというフランスの歌手だそうで、俳優としても活動していたようです。なぜGino Lorenziという名義で「L’amore Perdonera」を発表したのかまではわかりませんでしたが、この曲を聴くたびに『一晩中』のラストシーンを思い出してしまいますね。
また、他のアケルマン監督作品とは毛色の違うミュージカル映画『ゴールデン・エイティーズ』(1986)も記憶に残っています。美容院で仕事をしながら、はしゃぐように歌い踊る女性たちの陽気さと軽快さに思わず笑みがこぼれてしまいました。楽曲のクレジットを確認してみると作詞はアケルマン監督自身が手がけ、作曲はMarc Hérouet(マルク・エルエ)という人が担当しています。Marc Hérouetは60年代後半から70年代前半に活動していたベルギーのロックバンドWallace Collection(イギリスの美術館から名づけられたらしい)の一員とのこと。69年に発表されたシングル曲「Daydream」はベルギーのチャートで1位、フランスでも3位になるなど、各国でヒットしていたそうです。Marc Hérouetはアケルマン監督作では他に『夜と昼』(1991)でも音楽を担当しています。『ゴールデン・エイティーズ』と同じような曲調なのか、それともしっとりとした音楽なのか、気になってしまいますね。いつか観られるタイミングがあればなあと思います。
Gino Lorenzi『L’amore Perdonera』(1980)
Gérard Berliner『Gerard Berliner』(1982)
Marc Hérouet『(Un Film De Chantal Akerman) Golden Eighties』(1986)
Wallace Collection『Laughing Cavalier』(1969)
(ジャック)