2018.03.15

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

Vol.6 苦手な生き物は、どんな傑作映画もホラーに変える

先日、本年度米国アカデミー賞作品賞・監督賞など4部門を受賞したギレルモ・デル・トロ監督『シェイプ・オブ・ウォーター』を観てきました。神話の格調をたたえた物語世界に陶然とさせられながらも、映画の出来映えと全く関係ないところで不安の冷や汗をかいていました。それは主役の半魚人の顔面。魚というよりむしろカエルを模していたように感じたからです。あのまだらのような模様は、ベルツノガエルというかなり派手めな種類を想起させるに十分でした。水面から顔を半分だけ出して覗いているさまも、よく見るカエルの行動そのものです。

生き物偏愛家の私が、唯一苦手なのがカエルです。いまいち受け入れられないポイントはいくつかありますが、一つは発達した脚が挙げられます。予期できない俊敏な動きとプニャプニャした肉付きを考えるだけでも、冷や汗が止まらなくなります。また、毒や異物を飲み込むと、胃袋ごと口から吐き出す習性も驚愕です。どんなジャンルの映画でも、たとえワンシーンでもカエルが登場すると、私にとっては恐怖映画になってしまうのです。中でも忘れられない一本が、若松孝二監督の『水のないプール』です。

鉄道職員として無為な日々を送る男(内田裕也)が、目を付けた女性の家の窓から睡眠薬を投入して意識を失わせ、侵入しては狼藉を働くという映画です。敬遠されがちな内容ですが、寝入った女性のために食事を作り、人形のように座らせてパーティーを開くなど、欲望が徐々におかしな方へ向かっていく男の行動には、やけにくすぐられます。この薬の実験台が、巨大な(苦手なのでやたらと大きく見えます)ウシガエルでした。教師を装ってクロロホルムを入手した男は、容器の中にウシガエルを入れ、そこへ薬を一滴、二滴と注入し、意識を失う加減を計るのです。私が感じた、このウシガエルの演技(?)のグロテスクさは、スクリーンで見せる真っ白い脚のせいでした。足を広げてコテンとひっくり返り、微動だにしない姿は、その後女性たちに起こる卑劣な事件を予告させて余りあったのです。

水ぬるむ春。カエルが目覚める季節の到来ですが、実はカエルは環境の変化に弱く、薄い皮膚はまともに水質汚染の影響を受けてしまうため、減少の一途をたどっているのだとか。また、カエルツボカビ症という致死率の高い両生類の感染症もあり、すでに200種類ものカエルが世界から消えてしまいました。彼らが苦手な私ですが、いつか『シェイプ・オブ・ウォーター』の半魚人のように希少な存在となってしまうのかもしれないと、一抹の寂しさをおぼえるのでした。

(ミ・ナミ)