2018.07.05

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

『ドラァグクイーンとロックミュージック』

私が何度観ても泣いてしまう映画の中に『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』という作品があります。旧東ドイツで生まれた少年がアメリカ人と結婚するために性転換手術を受けるも失敗、渡米後離婚しロックバンドを組むも、出会った青年に楽曲を盗まれ、スターになったその青年を追いかけながらライブをくり返すという内容なのですが、なんとも切ない映画なのです。ドラァグクイーンとロックという組み合わせのド派手な表面の背後には、性別や人と人とのつながりというとてもデリケートな問題がテーマになっています。どんなに求めても完全に一つになれるわけではないのに、それでも求めてしまうという、個人の孤独と他者との関係が素晴らしい楽曲とともに語られると、どうしても涙腺が緩くなってしまいます。

さて、ヘドウィグはジョン・キャメロン・ミッチェルによって創作されたキャラクターなのですが、なんと実際にドラァグクイーンのロックミュージシャンがいます。ウェイン・カウンティという人で70年代アメリカのパンクシーンから登場し、イギリスに拠点を移してアルバムを出します。私が特に好きなのが2ndアルバムでウェイン・カウンティ&ジ・エレクトリック・チェアーズ名義の『Storm The Gates Of Heaven』です。

一曲目の過激でケレン味のあるアルバムタイトル曲「Storn The Gates Of Heaven」やメロディアスでどこか切ない「Trying To Get On The Radio」など様々な楽曲があり、派手な見た目と繊細な内面の両方を感じることができます。その後ウェイン・カウンティはドイツに移り、性転換手術に無事成功。ジェイン・カウンティと名前を変えて今でも活動しています。ヘドウィグやカウンティのライブをくり返すという行為が、自己顕示欲を満たすということではなく、自分と世界との接点を見出したいという慎ましやかな主張にも思えてきます。

彼女は映画にも出演していて、ドイツの映画監督ローザ・フォン・ブラウンハイムの『ベルリンブルース』(1983)という作品に本人役で出演しています。少し調べてみると、なんと2004年にグラム・ナイトと称し、今は無き吉祥寺のバウスシアターで爆音上映されたようです。その他の上映作品は『ムーラン・ルージュ』、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』『ジギー・スターダスト』と非常に盛沢山。参加できなかったのを悔やみますが、当時はヘドウィグもウェイン(ジェイン)も知らなかったからなあ。もう少し早く生まれていれば、と思ったりもします。

『Storm The Gates Of Heaven』WAYNE COUNTY & THE ELECTRIC CHAIRS(1978)

(ジャック)