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ギターをかき鳴らし歌い上げるのがロックスター。
政治や世の中の権力への反抗を叫ぶのがロックスター。
酒とドラッグにおぼれるのがロックスター。
あぁ、数々の伝説的なロックスターが脳裏によみがえる…。
でもここにも、ちょっと風変りで愛おしい、ふたりのロックスターがいる。

『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のヘドウィグ。
性転換手術に失敗した上に、自分の才能全てをつぎ込んだ恋人に裏切られた。
今やスターとなった恋人の全米コンサートに付いて回り、
ヘドウィグは、場末のダイナーで怒りと悲しみに満ちた歌を歌う。
かつて愛し、全てを捧げた人への復讐を込めた、ヘドウィグの魂の叫び。
それでもなお、どこかにあるはずのまっさらな愛を探し続けている。

『きっと ここが帰る場所』のシャイアンは、
遠い昔一世を風靡したが、今は妻や近所の人たちと半ば隠居暮らし。
ある時、疎遠だった父親が危篤となり故郷アメリカに帰った彼は、
父がナチスSS隊員の生き残りを探していたことを知る。
そしてシャイアンは、間もなく亡くなった父の代わりに旅に出た。
それは“残党探し”というより、“自分探し”の長い旅…。

真っ赤な口紅とどぎついアイメイクに、ライオンのような髪型。
人生に挫折しかかった若くもない男(と女?)は、
その攻撃的な出で立ちで必死に己の脆さを隠しているかのようだ。

“私のすべてを受け入れてくれる愛がほしい!”
“心から安らげる場所はどこにある?”

強烈なアイデンティティを持ちながら、
それをうまく見つけられないふたり。
不器用で不安定な、彼らの愛のかたち。
もしかしたらロックスターとは、
誰よりも愛に貪欲な生き物なのかもしれない。

そして旅の果てに、彼らが行き着く場所は果たして、
the origin of love(愛の起源)か、
this must be the place(きっとここが帰る場所)か。
名曲に耳を傾けながら、ヘドウィグとシャイアンの旅路を優しく見届けてほしい。

ちなみに、世界で一番有名な愛の戦士はこんなことを言っている。

And in the end the love you will take is equal to the love you make.
(結局 あなたが受け取る愛はあなたが与える愛に等しい。)
―――――Jonn Lennon「The End」

う〜ん、いいこと言うなぁロックスター。
実は弱虫で、寂しがり屋のロックスターに、わたしは幾度も励まされるのだ。

(パズー)

ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ
HEDWIG AND THE ANGRY INCH
(2001年 アメリカ 92分 ビスタ・SRD) pic 2012年11月24日から11月30日まで上映
■監督・原作戯曲・脚本 ジョン・キャメロン・ミッチェル
■原作戯曲 スティーヴン・トラスク
■撮影 フランク・G・デマルコ
■音楽 スティーヴン・トラスク

■出演 ジョン・キャメロン・ミッチェル/マイケル・ピット/ミリアム・ショア/スティーヴン・トラスク

■サンダンス映画祭最優秀監督賞・最優秀観客賞/ベルリン国際映画祭テディ・ベア賞/全米ナショナル・ボード・オブ・レビュー最優秀新人監督賞/サンフランシスコ国際映画祭最優秀観客賞/シアトル国際映画祭最優秀主演男優賞/ドービル映画祭最優秀新人監督賞・最優秀批評家賞・グランプリ賞 ほか

★製作から長い年月が経っているため、本編上映中、一部お見苦しい箇所がございます。ご了承の上、ご鑑賞いただきますようお願いいたします。

夢と引き換えに刻まれた、「怒りの1インチ」
誰もが、自分の“カタワレ”を探してる…。

pic1960年代後半。旧東ドイツ生まれの少年ヘドウィグは、自由を得て、ロックシンガーになる夢を叶えるため、アメリカ兵との結婚を決意。性転換手術を受けることとなる。しかし、股間には手術ミスで「怒りの1インチ(アングリーインチ)」が残ってしまう。

渡米するも離婚し、ロックバンドを組むヘドウィグ。やがて青年トミーに出会うが、トミーはヘドウィグのオリジナル曲全てを盗んでビルボードNo.1のロックスターに登りつめる。裏切られたヘドウィグは自らのバンド「アングリーインチ」を引き連れ、トミーの全米コンサートを追い、大会場の隣のしがないレストランを巡業するが…。

オフ・ブロードウェイの伝説の舞台を映画化
今なお多くの人の心を掴んでやまない
切なくて愛おしいロック・ミュージカルの傑作!

picマドンナやデヴィッド・ボウイが熱狂し、NYのオフ・ブロードウェイで2年半以上に渡るロングランを記録したロック・ミュージカルが、舞台と同じく監督・脚本・主演ジョン・キャメロン・ミッチェルによって2001年に映画化された。サンダンス映画祭でプレミア上映された本作は、最優秀監督賞と最優秀観客賞をダブル受賞。その後も数々の賞を受賞し、性も人種も世代の違いも軽々と乗り越え、多くの観客に生きる勇気を呼び起こした。

pic自分の“失われたカタワレ(missing half)”=「愛」を追い求める無名のロックシンガー、ヘドウィグの数奇な半生を、心揺さぶるグラムロックにのせて贈るロック・ミュージカル。世界をラメ色に塗り替えるグラマラスなポップチューンは、ヘドウィグの孤独な魂の叫び。生半可な「癒し」などこっぱみじんに吹き飛ばす圧倒的な喪失感と、愛への渇望を謳い上げるその姿が、胸に切なく突き刺さる。


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きっと ここが帰る場所
THIS MUST BE THE PLACE
(2011年 イタリア/フランス/アイルランド 118分 シネスコ・SRD) pic
2012年11月24日から11月30日まで上映
■監督・原案・脚本 パオロ・ソレンティーノ
■脚本 ウンベルト・コンタレッロ
■撮影 ルカ・ビガッツィ
■音楽 デヴィッド・バーン/ウィル・オールダム

■出演 ショーン・ペン/フランシス・マクドーマンド/ジャド・ハーシュ/イヴ・ヒューソン/ケリー・コンドン/ハリー・ディーン・スタントン/ジョイス・ヴァン・パタン/デヴィッド・バーン

■2011年カンヌ国際映画祭コンペティション正式出品・エキュメニカル審査員賞受賞

人生は美しさで満ちている
だけど、時々、何かが変だ…

picシャイアンは一世を風靡した人気ロックスター。しかし、ある時から一切表に出なくなった。広大な邸宅に妻と二人暮らし、付き合うのは近所のロック少女メアリーたちのみ。そんな平穏な生活を送るシャイアンに、ある日、故郷アメリカから「父危篤」の知らせが舞い込んだ。

シャイアンがニューヨークに到着した時、父は思いを遺したまますでに亡くなっていた。30年会わなかった父は、収容所にいた時のナチSS隊員ランゲを捕まえる宿望を持っていた。葬式を終えたシャイアンは、いつの間にかランゲを求めてアメリカ横断の旅に出ているのであった…。

カンヌが引き合わせた才能――
名優ショーン・ペン×イタリアの新星パオロ・ソレンティーノ
幸せな映画のめぐりあい

pic『イル・ディーヴォ』で2008年カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞したパオロ・ソレンティーノ監督。この作品に惚れ込んだ審査員長のショーン・ペン。意気投合した二人は、一緒に新作をつくることを約束する。そして生まれた『きっと ここが帰る場所』は、緊密に設計された美しい映像と説明的な描写を極力避けた自由なストーリーテリングで、観る者の五感に直接訴えかけてくる。

シャイアンに扮したショーン・ペンや、脇を固めるキャストたちの素晴らしい演技はもちろんだが、本作の魅力は全編に散りばめられた音楽とも言えるだろう。元トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーン、さまざまな顔で活躍するボニー・プリンス・ビリーのウィル・オールダムが音楽を担当。原題の“THIS MUST BE THE PLACE”はトーキング・ヘッズの名曲から採られており、本人役で出演するバーンが劇中でも名演奏を披露してくれる。



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