2022.07.21

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

『コレクティブ 国家の嘘』から2度目の衝撃

先月上映しました『コレクティブ 国家の嘘』。ドキュメンタリー映画なのですが、劇映画とすら思えてくるその内容に、かなりの衝撃を覚えてしまいました。そんな映画の余韻に浸りながら、使用されている音楽を調べることが、自分の中のルーティーンになっているのですが、音楽なんてほとんどなかったように感じた『コレクティブ 国家の嘘』について調べていると、サウンドトラックの欄にEliane Radigueという名前をみつけました。

Eliane Radigueは1932年生まれのパリ出身の女性ミュージシャンで、一定の持続した音によって作られる「ドローン」と呼ばれる電子音楽を数多く発表しています。映画で使われていたのは「Kyema」という曲で、「チベット死者の書」に影響されて作成された『Trilogie De La Mort』というアルバムに収録されています。ちなみに「Kyema」はなんとほぼ1時間にもわたる長尺の曲で、他2曲もかなりの長尺。そのため3枚のCDに分かれていて、大変なボリュームとなっています。メロディやリズムはなく、伸ばされた音の断片が浮き沈みするこの曲は、音が鳴っているのにむしろ静粛を感じたり、思考の奥底へと潜っていくような瞑想的なものを感じたりします。記憶やイメージが現れては消えていくような感覚なのですが、夢とは違う現実感があるように思います。実は不勉強ながら、彼女のことは名前しか知らず、今回初めて聞いてみたのですが、まさか『コレクティブ 国家の嘘』からこんな角度の衝撃を受けるとは(どうやら彼女の楽曲はアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の『レヴェナント:蘇えりし者』でも使われているようです)。

ちなみに、Eliane Radigueの最新作は2022年に発表された『Occam XXV』というアルバムです。近年は電子音楽ではなく、アコースティック楽器をメインに作成しているようで、このアルバムは自身初のオルガンのための作品なのだそうです。90歳近くなってもこのバイタリティはすごすぎる。彼女の作品をすべて聞いてみたいとふつふつと思っています。

Eliane Radigue 『Trilogie De La Mort』(1998)

(ジャック)

©Alexander Nanau Production, HBO Europe, Samsa Film 2019