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『ボーダーライン』のFBI捜査官ケイトが誘拐事件現場で見た多数の犠牲者。『レヴェナント:蘇えりし者』でのその場にいるような生々しさを持つ原住民の襲撃のシーン。まるで銃声を合図に始まるような映画の冒頭が放つ衝撃が、この先で起こる何か不吉で困難な道のりを予感させる。多くの血が流れ、多くの犠牲者がいるその場面は、まだ始まりにすぎないのだ。

主人公ケイトが対メキシコ麻薬カルテルの特殊チームに抜擢され、ほとんど何もわからないまま作戦が進んでいく『ボーダーライン』。彼女自身が認識していた常識や規則が通用しない現場と、無法なその土地の事実。そして同じチームでありながら全貌を掴みきれない人物である、ベニチオ・デル・トロ演じるアレハンドロと、ジョシュ・ブローリン演じるマットの不気味さがサスペンスを引き立てる。

狩猟の帰路でグリズリーに襲われ重傷を負ってしまう『レヴェナント:蘇えりし者』のヒュー・グラス。助からないであろうと仲間に取り残された上に、最愛の息子を殺されてしまい、その復讐を原動力に、傷だらけの身体を引きずり極寒の地を進み続ける。あまりに過酷な状況と幻想的な風景、そして回想なのか妄想なのか定かではない夢のようなイメージが、現実を飛び越え、幻の世界に迷い込んでしまったかのような印象を与える。

時代、状況、映画の表現方法は違えど、二人の主人公は自分がいるはずだった環境とは別の場所で立ち尽くす。非情な麻薬カルテルに同じく非情さを持って挑む特殊チームに加担せざるを得ないケイト。そして原住民と結婚し彼らとともに暮らしていたヒューは、生きるために白人の毛皮会社に雇われ狩場を行く。相容れない二つの世界の間で、何とか重なる部分を見つけようと彼らは進み続ける。善悪の間を飛び交う銃弾の中を、そして荒れ狂う吹雪の中を。

この二つの作品は一瞬たりとも油断ができない緊張感に溢れている。映画を観終えた後も、その余韻が残っているはずだ。達成感と徒労感がない交ぜになったような割り切れない感覚が沸き上がる。それは映画がもたらしてくれる喜びの一つであると思う。必ずしも心地よいということだけが、映画としての面白さを担保しているわけではない。

(ジャック)

ボーダーライン
SICARIO
(2015年 アメリカ 121分 DCP R15+ シネスコ) pic 2016年9月10日から9月16日まで上映 ■監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
■脚本 テイラー・シェリダン
■撮影 ロジャー・ディーキンス
■編集 ジョー・ウォーカー
■音楽 ヨハン・ヨハンソン

■出演 エミリー・ブラント/ベニチオ・デル・トロ/ジョシュ・ブローリン/ジェフリー・ドノバン/ダニエル・カルーヤ

■2015年アカデミー賞撮影賞・作曲賞・音響賞ノミネート/カンヌ国際映画祭パルム・ドールノミネート/英国アカデミー賞助演男優賞・作曲賞・撮影賞ノミネート

その善悪に境界<ボーダー>はあるのか――

pic 巨悪化するメキシコ麻薬カルテルを殲滅すべく、特殊部隊にリクルートされたエリートFBI捜査官ケイト。特別捜査官に召集され、謎のコロンビア人と共に国境付近を拠点とする麻薬組織ソノラカルテルを撲滅させるミッションに就く。仲間の動きさえも把握できない常軌を逸した極秘任務、人が簡単に命を落とす現場に直面したケイトは、善悪の境界が分からなくなってゆく…。

国境麻薬戦争の「今」を
極限の臨場感で捉えたサスペンスアクション

picアメリカFBIやCIAの活動を描いた作品に新たな傑作が誕生した。舞台はアメリカとメキシコ国境の町フアレス。暴力、麻薬、死が日常と隣合せに存在する無法地帯で繰り広げられる最前線での攻防を、極限の臨場感で描き出している。

pic 監督は『プリズナーズ』『灼熱の魂』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。衝撃的な現場に送り込まれるFBI捜査官を『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のエミリー・ブラントが演じる。また、ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリンらが脇を固める。法無き世界で悪を征する合法的な手段はあるのだろうか? 得体の知れない悪を前に、知れば知るほど深くなる闇の行く末とは――。

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レヴェナント:蘇えりし者
THE REVENANT
(2015年 アメリカ 157分 DCP R15+ シネスコ)
pic 2016年9月10日から9月16日まで上映 ■監督・製作・脚本 アレハンドロ・G・イニャリトゥ
■脚本 マーク・L・スミス
■撮影 エマニュエル・ルベツキ
■編集 スティーヴン・ミリオン
■音楽 坂本龍一/アルヴァ・ノト

■出演 レオナルド・ディカプリオ/トム・ハーディ/ドーナル・グリーソン/ウィル・ポールター/フォレスト・グッドラック

■2015年アカデミー賞監督賞・主演男優賞・撮影賞受賞、ほか9部門ノミネート/ゴールデン・グローブ賞作品賞・男優賞・監督賞受賞、音楽賞ノミネート/英国アカデミー賞作品賞・主演男優賞・監督賞・撮影賞・音響賞受賞 ほか3部門ノミネート

復讐の先に、何があるのか。

pic1823年、アメリカ北西部を行く狩猟の旅の途中、ハイイログマに襲われて瀕死の重傷を負ったヒュー・グラスは、仲間に置き去りにされたうえ、彼を助けようとした最愛の息子を殺されてしまう。激しい怒りと絶望を力に変え、奇跡的に死の淵から蘇えりを果たすグラス。裏切り者の追跡を開始した彼は、燃えたぎるような復讐心を原動力に、危険に満ちた極寒のフロンティアをひたすら前へと突き進み…。

ディカプリオが悲願のアカデミー賞を受賞!
愛する息子を奪われた男の復讐をかけた闘いを
実話を元に描く、
大迫力サバイバル・アドベンチャー巨編!

pic 監督は、前作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でアカデミー賞作品賞、監督賞、脚本賞を受賞したアレハンドロ・G・イニャリトゥ。本作でも見事、監督賞に輝いた。本物のフロンティアの再現に強くこだわったイニャリトゥ監督は、マイナス20℃の極寒の地でロケを敢行。人工的な照明を一切使わない自然光のみの撮影を行い、壮大な大自然を未だかつてないスケール感で映し出している。

pic主演のレオナルド・ディカプリオは、本作で悲願の主演男優賞を受賞。壮絶なサバイバルの旅の果てに大自然の摂理を見出すハンター、ヒュー・グラスの魂の軌跡を、渾身の力をこめて熱演している。共演は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のトム・ハーディ、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のドーナル・グリーソンら実力派が揃った。

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