『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のストーリーはシンプル極まりない。セリフも最小限に切り詰められている。見どころはもちろんアクションだ。だが、物語から乖離した派手な場面づくりのためだけのアクションほど退屈なものはない。
本作のほんとうの真価は、アクションがキャラクターや物語と徹底的に連動し、同時進行でつるべうちに展開していくところにある。アクションシーンで物語が停滞するどころか、どんどんドライヴが加速していく。私たちは怒涛のアクションの連続に圧倒されながらも、登場人物たちの感情や関係性の変化もまた、驚くほどの豊かさで感じとることができる。自由を奪われた女たちの怒りが、何としても生きようとする主人公マックスの狂人的なまでの意志が、私たちの心をどうしようもなく震わせる。
この映画の重要なアクションは、派手なカーチェイスや銃撃戦ばかりではない。キャラクターの視線ひとつ、ちょっとした表情の変化ひとつもまた、映画を躍動させる語りのために繊細に機能していく。まるで視覚芸術の究極を追求したサイレント映画のような、映画の原初的な興奮と感動が迸る。
『マッドマックス』シリーズの創始者ジョージ・ミラー監督は、今までも十分に伝説的だった『マッドマックス』神話をさらにぶっちぎりで更新した。通常の映画何本分もの膨大なアイディアは、製作準備のために費やされた10年以上の間に磨かれ、研ぎ澄まされた。創意工夫が凝らされたアクション場面のみならず、砦や車の芸術の域に達した狂った造形美。そして、丸坊主の体を張った熱演で女戦士フィリオサそのものになったシャーリーズ・セロンのすばらしさには、誰もが思わず頭を垂れてしまうことだろう。
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、あまりにもぶっちぎりに偉大すぎる大傑作だが、とはいえ『マッドマックス2』が不朽の名作である事実もまたいささかも揺るがない。荒涼とした終末的世界観が、「北斗の拳」を始め、のちに幾多の漫画・映画へ決定的な影響を与えた歴史的作品だ。若きメル・ギブソン演じるマックスのストイックで時にニヒルな存在感もさることながら、『13日の金曜日』のジェイソンよりも先にホッケーマスクを被ったイカしたセンスのヒューマンガスなど、凶悪でパンキッシュな悪役キャラたちや、史上最もデンジャラスな8歳児が出てくることでも知られている(この映画を観てから、子どもの投げてくる物にむやみに手を出さないでおこうと肝に銘じました)。マックスと見事な名コンビぶりを見せるワンちゃんの雄姿は、後に『ベイブ』や『ハッピーフィート』を生み出すジョージ・ミラー監督ならではだ。
ジョージ・ミラー監督の、言葉以上に視覚で物語る姿勢は本作でも徹底されている。タイトな上映時間にハードなアクションがぶち込まれた本作には、初期パンクのようなワン&オンリーの荒削りな魅力があふれている。
今週の二本立てを観る者は、ジャン=リュック・ゴダール監督『気狂いピエロ』に出演したサミュエル・フラーの、かの名言を全身で浴びるように体感することになるだろう。
「映画とは戦場のようだ。愛であり、アクションであり、暴力であり、死である。つまりはエモーション(感動)だ。」
見まごうことはない、これが映画だ!!!
(ルー)
マッドマックス2
MAD MAX 2: THE ROAD WARRIOR
(1981年 オーストラリア 96分 シネスコ)
2015年10月17日から10月23日まで上映
■監督・脚本 ジョージ・ミラー
■製作 バイロン・ケネディ
■脚本 テリー・ヘイズ/ブライアン・ハナント
■撮影 ディーン・セムラー
■音楽 ブライアン・メイ
■出演 メル・ギブソン/ブルース・スペンス/バーノン・ウェルズ/バージニア・ヘイ/ケル・ニルソン/エミール・ミンティ
■1982年LA批評家協会賞外国映画賞受賞/アボリアッツ・ファンタスティック映画祭グランプリ
石油を巡る戦争が起きたことにより、文明社会は終わりを告げ、荒野は凶暴化した暴走族が略奪を繰り広げる無法地帯となった。3年前までは追跡専門の警官として、凶悪な暴走族相手に命がけの活躍をみせたマックスも、そのとばっちりで殺された妻と子の復讐をとげ、生きる望みを失っていた。
警官バッチを焼き捨て、荒野をさすらうマックスは、暴走族の襲撃に苦しむ精油所の一団と出会う。一度は目を背けたマックスだったが、彼らに命を救われ、眠っていた正義感が甦る。そして、再び命を懸けた戦いが始まる――。
『マッドマックス』で全世界の映画ファンをシビレさせた強力チームが再び集結! シリーズ2作目となる本作は、前作以上に大ヒットし、今もなお“近未来バイオレンス映画の元祖&王者”として君臨し続けている。
ジョージ・ミラー監督自身「これこそ自分が作りたかった映画だ」と言い切るほど、迫力満点の傑作を作り上げた。マックスを演じるメル・ギブソンは、前作の甘いマスクは捨て、殺伐とした闘う男へと変貌している。
ミラー監督は続編を作るにあたり「千の顔をもつ英雄」という世界各地の神話に登場する英雄を研究した書物を読み、『マッドマックス』との類似点をを見いだした。そこで、続編は神話の英雄ムードを打ち出した物語にすることにしたのだという。そしてこのテーマは、最新作『怒りのデス・ロード』にも貫かれている。
マッドマックス 怒りのデス・ロード
(2D・字幕)
MAD MAX: FURY ROAD
(2015年 オーストラリア/アメリカ 120分 シネスコ)
2015年10月17日から10月23日まで上映
■監督・製作・脚本 ジョージ・ミラー
■製作 ダグ・ミッチェル/P・J・ボーテン
■脚本 ブレンダン・マッカーシー/ニコ・ラソウリス
■撮影 ジョン・シール
■美術 コリン・ギブソン
■衣装 ジェニー・ビーバン
■編集 マーガレット・シクセル
■音楽 トム・ホルケンボルフ/ジャンキーXL
■出演 トム・ハーディ/シャーリーズ・セロン/ニコラス・ホルト/ヒュー・キース=バーン/ゾーイ・クラビッツ/ロージー・ハンティントン=ホワイトリー/ライリー・キーオ/アビー・リー/コートニー・イートン
愛する家族を奪われ、本能だけで生きながらえている元・警官マックス。資源を独占し、恐怖と暴力で民衆を支配するジョーの軍団に捕らわれたマックスは、反逆を企てるジョーの右腕フュリオサ、配下の全身白塗り男ニュークスと共に、奴隷として捕らわれた美女たちを引き連れ自由への逃走を開始する。凄まじい追跡、炸裂するバトル…。絶体絶命のピンチを迎えた時、彼らの決死の反撃が始まる!
最高にMADな映画がやってくる――。ジョージ・ミラー監督が10年以上の歳月をかけて完成させたシリーズ最新作! ノンストップ、ハイスピードの二輪、四輪入り乱れる驚愕のカーバトルが、異常なまでの興奮を巻き起こす!
シリーズ史上4作目となる本作でマックスを演じるのは、『ダークナイト・ライジング』のトム・ハーディ。新キャラクターのフュリオサに、『モンスター』のシャーリーズ・セロン、その他、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース=バーンなど、多彩なキャストが集結した。
始まったが最後、息つく暇は微塵もない。CGを排除した、このガチなリアル・アクション超大作は、すべてがMAD! アクション映画の歴史を塗り替えるのは、この映画に他ならない。