2021.02.18
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:立春(りっしゅん)、末候:魚氷上(うおこおりをいずる)
今冬東京では積もるほどの雪も降らないままですが、もう日中はだいぶ暖かくなってきましたね。つい先日の地震には驚かされました。暖かくなってきたとはいえ、まだ寒いこの時期に停電で眠れないような思いをしている方々の心中を想像すると一日も早く暖かく過ごせるといいのにと、たまらない気持ちになります。【魚氷上】は氷が解けはじめて薄氷の下で魚が動くのを見たり、暖かい日には飛び跳ねたりするのを見るような季節です。薄氷は「はくひょう」「うすごおり」とも読みますが、俳句の世界では和語風に「うすらひ」と読み、氷を「ひ」と読むことから、音では「い」ですが「薄ら氷(うすらひ)」と書きます。
3月の初週に当館で上映する『薄氷の殺人』という作品がありますので、時期もほどよいですね。「氷」とあるので冬を想起しますが「薄ら氷」は春の季語です。暖かくなってきた季節の境目を明らかにする現象なので俳句でも数多く詠まれています。そうした俳句を読んでいると面白いのは「薄氷」とくれば、踏むか踏まないかが問題となってくることです。童心芽生えて踏みたくなる気持ちや、踏まずに避けるのにもそのときの心情が表れます。「薄氷を踏む思い」と言えば、非常に危険な状況に望む心境を表す言葉でもあるように、踏むか踏まないか、まるで運命の分かれ道のようにその問題が迫ってくるのです。かくいう私も幼い頃冒険心に駆られて踏んだ氷で滑って血を噴き出すような大怪我をしたことがあります。薄氷はその下に水面とわずかな空気の層を含み多くの境目を発見させてくれますが、大きな池に張った薄氷はときに青空を映し出しながら、曖昧な水面と空の間(あわい)という空間をも曖昧にして極上のサスペンスを作り出すことがあります。固体になったら軽くなるのはおおよそ水だけと言いますが、自然界のイリュージョニストとでも呼びたくなります。氷の話では以前『デカローグ』という作品についても書きましたが、映画との相性もとてもいいのかもしれませんね。『薄氷の殺人』は原題が『白日焔火』、英題が『BLACK COAL, THIN ICE』ですが、氷との対比になる花火や黒い炭のエレメンツが事件の真相を綯い交ぜにするとても美しい映画です。
(上田)