2020.10.22
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
生き物偏愛家のみなさん。人生に一度は動物の相棒を持つことに憧れるのではないでしょうか? 思えば私は、周囲の女の子たちが童話やファンタジー映画の“白馬の王子様”に目を輝かせていた幼いころ、王子ではなく素敵な馬の訪れを待ちわびていたように思います。そして今も、身に危険が迫った瞬間に助けてくれる大型犬や、肩に乗って困ったときに機転を利かせる知恵者の小動物が、いつの日か私のもとへやってくることを妄想してしまうのです。
そんな万人の夢を現実のものとしている何ともうらやましい映画が、今夏の早稲田松竹でも好評を博した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』です。落ち目のテレビ俳優リック(レオナルド・ディカプリオ)と、彼の付き人でスタントマンのクリフ(ブラッド・ピット)が、黄金期のハリウッドを舞台にスター街道の夢と挫折、そしてタランティーノの映画愛を大いにちりばめた快作でした。
冒頭からレオとブラピがクラシックカーを乗り回していて、俳優陣といい演出といい“映え”のスケールが桁外れであることは間違いないこの映画ですが、私は断言します。主役は、クリフの愛犬、アメリカン・ピット・ブル・テリアのブランディです! とにかく、クリフとの信頼関係が強固であることが素晴らしい。それもそのはず、彼は頻繁にブランディに話しかけているからなのです。特にブランディの食事のシーン。ただ「伏せ」「待て」だけではなく、まるで自分の子供に接しているような心の傾け方を感じますし、私自身、飼っているカメが餌を食べている間、延々と話しかけてしまうので、クリフの気持ちは痛いほどにわかります。
通称ピットブルと呼ばれているアメリカン・ピット・ブル・テリアの多くには、断耳という耳の一部を切り取る外科手術がほどこされています。これは元来、狩猟犬や牧畜犬がクマなどの外敵と戦う際、耳にかみつかれて致命傷を負わないようにという意味だったといわれています。もちろんブランディにも断耳の様子が見て取れます。歴史的には古くから愛犬家の間で行われていた行為だそうで、耳を切ったブランディの見た目は、威風堂々とした体格とのバランスも取れていてキリリとしてはいます。ただ、現在は動物愛護の観点からあまり奨励されなくなっているとのことです。
映画のラスト、リック邸を襲撃してきた暴漢たちが、クリフの舌打ちの合図を受けたブランディにコテンパンにされるシーンを映画館で観たとき、もし許されていたなら私は黄色い声援を上げるところでした。ブランディを演じたサユリ嬢(実はメス)が、本作で第72回カンヌ国際映画祭のパルム・ドッグを受賞したというのも納得です。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』生き物偏愛家応援上映、いつか実現したいですね。
(ミ・ナミ)