【2020/7/11(土)~7/24(金)】『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』/『パルプ・フィクション』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』★一本立て上映・各回入替制

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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は69年の日本初公開当時『ウエスタン』の邦題で知られていました。今の視点で見ると素っ気ないタイトルに思えますが、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』が本来はまがい物として蔑まれてきたマカロニウエスタン(イタリア製西部劇)の集大成的大作だったことを考えれば、これはかなり大胆で卓識あるネーミングセンスだったと思います。

アメリカの建国精神を反映した勧善懲悪で清廉潔白なハリウッド西部劇に対し、善と悪が入り乱れる汚れたリアリズムが特徴のマカロニウエスタン。『荒野の用心棒』でブームを作ったセルジオ・レオーネはその魔術的な演出を成熟させ、神話的スケールと残酷な詩情溢れる誰にも真似できないスタイルを築き上げました。もはやそれは当時衰退期に向かっていたハリウッド西部劇よりもリアルに西部劇の精髄を極めていたのです。その高らかな宣言として、この映画の邦題にはそのものずばりの『ウエスタン』が当時はふさわしかったのだと思います。

まがい物がまがい物であることによってに真に偉大なオリジナルになり得る。この逆説はタランティーノのキャリアそのものでもあると思います。90年代最も重要な映画に数えられる『パルプ・フィクション』は、タイトルが示すように土台こそかつての三文小説(パルプ・フィクション)のイミテーションですが、細部の細部まで張り巡らせられた膨大な映画ネタをヒップホップ的センスでサンプリングすることで誰も見たことがないフレッシュな映画として見事に再生したのです。本作で確立されたタランティーノセンスはこれ以降インディーズ、大作問わず全世界的に波及していきます。タランティーノもまた模倣される対象になったのです。

それから四半世紀あまり。タランティーノは未だに世界の最前衛にいる映画作家であることを最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』で見事に証明しました。ここにも映画ファン的な小ネタは無数にあるのですが、それらはもはや特出しません。ここで引用されるのは69年のハリウッドの空気感そのものです。時代が変わっていく高揚感溢れるムードがそのまま再現され、私たちは多幸感とともにゆったりとした雄大な時間に身を委ねることになります。

しかしながら、69年のハリウッドがひとつの時代の陰惨な終焉であったことも私たちは知っています(ご存知ない方は、69年に起こった忌まわしいシャロン・テート事件を予習することをおすすめします)。この時代を再現するのであればこの事件を避けて通ることは出来ません。タランティーノはこの難問にどう向き合ったのか。最終的に私たちが目撃するのはタランティーノが精神的師匠のひとり、セルジオ・レオーネと肩を並べる堂々たるスケールの巨匠になった瞬間です。映画史が『パルプ・フィクション』以前と以後に分かれたように、ひとつの時代を総括する本作の出現によって、私たちは否応もなく『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』以降の世界を生きることになったのです。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト
Once Upon a Time in the West

セルジオ・レオーネ監督作品/1968年/イタリア・アメリカ/165分/DCP/シネスコ

■監督 セルジオ・レオーネ
■原案 ダリオ・アルジェント/ベルナルド・ベルトルッチ/セルジオ・レオーネ
■脚本 セルジオ・ドナーティ/セルジオ・レオーネ
■撮影 トニーノ・デッリ・コッリ
■美術・衣装 カルロ・シーミ
■編集 ニーノ・バラーリ
■音楽作曲・指揮 エンニオ・モリコーネ

■出演 クラウディア・カルディナーレ/ヘンリー・フォンダ/ジェイソン・ロバーズ/チャールズ・ブロンソン/ガブリエル・フェルゼッティ

■1969年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞受賞

©1968 by PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. All Rights Reserved.

【2020年7月11日から7月24日まで上映】

女は生きた。無法と決闘の時代を―。

大陸横断鉄道敷設によって新たな文明の波が押し寄せていた西部開拓期。ニューオーリンズから西部に嫁いできた元・高級娼婦のジルは、何者かに家族全員を殺され、広大な荒地の相続人となった。莫大な価値を秘めたその土地の利権をめぐり、ジルは、鉄道会社に雇われた殺し屋フランク、家族殺しの容疑者である強盗団のボス、シャイアン、ハーモニカを奏でる正体不明のガンマンらの熾烈な争いに巻き込まれていく――。

世界の映画監督が絶賛するオリジナル版。レオーネ・スタイルの頂点を極めた一大叙事詩!

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』は、クリント・イーストウッド主演『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』の通称【ドル3部作】で全世界にイタリア製西部劇=マカロニ・ウエスタン ブームを巻き起こした巨匠セルジオ・レオーネが、前3部作とは大きく方向性を変え、自らの作家性を前面に打ち出した野心作。

若き日のベルナルド・ベルトルッチ監督とダリオ・アルジェント監督を共同原案に抜擢したレオーネは、ルキノ・ヴィスコンティ監督『山猫』を下敷きに、女性主人公ジルの目を通し、移り変わる時代と共に滅びゆくガンマンたちの落日を、スタイリッシュかつ重厚壮麗なバロック的演出を駆使して描き、それまでのマカロニ・ウエスタンともハリウッド製西部劇ともまったく似て非なる、異形の超大作として完成させた。

日本初公開から50年、レオーネ生誕90年、没後30年、そして以前よりレオーネ作品への愛と敬意を公言していたクエンティン・タランティーノ監督が、本作のタイトルを引用した最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が公開された昨年2019年、遂に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』、2時間45分オリジナル版が日本初公開となった。

パルプ・フィクション
Pulp Fiction

クエンティン・タランティーノ監督作品/1994年/アメリカ/154分/ブルーレイ/PG12/シネスコ

■監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
■原案 クエンティン・タランティーノ/ ロジャー・エイヴァリー
■撮影 アンジェイ・セクラ
■編集 サリー・メンケ
■音楽 カリン・ラットマン

■出演 ジョン・トラヴォルタ/サミュエル・L・ジャクソン/ユマ・サーマン/ブルース・ウィリス/ハーヴェイ・カイテル/ティム・ロス/アマンダ・プラマー/マリア・デ・メディロス/ヴィング・レイムス/エリック・ストルツ/ロザンナ・アークエット/クリストファー・ウォーケン/スティーヴ・ブシェミ/クエンティン・タランティーノ

■1994年カンヌ国際映画祭パルムドール受賞/アカデミー賞脚本賞受賞・作品賞ほか5部門ノミネート/ゴールデングローブ賞脚本賞受賞・作品賞ほか4部門ノミネート/全米批評家協会賞作品賞・監督賞・脚本賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

Images courtesy of Park Circus/Miramax

【2020年7月11日から7月24日まで上映】

時代にとどめをさす

【1】たった一晩、ボスの妻のお供を命ぜられたギャング・ヴィンセントがクラブで夜遊び、いいムードになった矢先、ドラッグのやり過ぎでボスの妻は倒れてしまう…。

【2】マフィアのボスから八百長を持ちかけられたボクサー・ブッチは恋人との甘い生活を夢見て、一世一代の大博打! 八百長破りを敢行し一旦は逃げだすが、父の形見の時計を置き忘れ、マフィアの元へ戻るはめに…。

【3】騙し取られたスーツケースを取り戻しに行った二人組のギャング・ヴィンセントとジュールズ。ケースは取り戻したが、車中で別の仲間を殺してしまう。死体処理に困った二人は嫌がる友人宅から助けを呼ぶと、やたらと怖い”死体掃除屋”がやって来て…。

クエンティン・タランティーノ監督第2作。絢爛たるスターが贈る、スーパー・エンタテインメント!

監督2作目にしてカンヌ国際映画祭の最高賞パルムドール、アカデミー賞の脚本賞を獲得。時代の寵児=タランティーノの名声を決定づけた一作。安手の犯罪小説雑誌(パルプ・フィクション)をモチーフに、L.A.を舞台にした3つの異なるストーリーが微妙に交錯しながら展開していく。ボスの愛人と一晩過ごすことになった殺し屋の災難、ギャングを裏切った中年ボクサーを襲う絶体絶命の危機、間抜けな事故の後始末に追われる殺し屋コンビニ訪れた人生の転機…上映時間154分という長尺を悠々と見せ切る演出はすでに巨匠の風格すら漂う。

監督デビュー作『レザボア・ドッグス』と本作が当時の若手映画作家にもたらした影響はあまりにも大きく、その作劇とセリフのスタイルを模倣するフォロワーを世界中に大量発生させた。主演のギャング役にジョン・卜ラボルタ、ボスの妻役にユマ・サーマン、そしてボクサ一役に『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスを起用。当時キャリアが低迷していたジョン・トラボルタを再ブレイクさせ、ブルース・ウィリスに「シャレのわかる実力派」というイメージを与えた功績も大きい。

オープニング・タイトルに流れるテーマ曲は、ギタリスト、ディック・デイルによる1962年の大ヒット サーフ・ロック「ミザルー」。またチャック・ベリ一、そしてクール&ギャン グ、アル・グリーンの70 年代ソウルなど、豪華ヒット・チューンにも注目。

(「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」パンフレットより一部抜粋)

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
Once Upon a Time in... Hollywood

クエンティン・タランティーノ監督作品/2019年/アメリカ/161分/DCP/PG12/シネスコ

■監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
■製作 デヴィッド・ハイマン/シャノン・マッキントッシュ/クエンティン・タランティーノ
■撮影 ロバート・リチャードソン
■編集 フレッド・ラスキン

■出演 レオナルド・ディカプリオ/ブラッド・ピット/マーゴット・ロビー/マーガレット・クアリー/ティモシー・オリファント/ダコタ・ファニング/マイク・モー/ルーク・ペリー/エミール・ハーシュ/アル・パチーノ/ブルース・ダーン

■2020年アカデミー賞助演男優賞・美術賞受賞・作品賞・主演男優賞ほか6部門ノミネート/2019年カンヌ国際映画祭パルムドールノミネート/2020年ゴールデングローブ賞作品賞・助演男優賞・脚本賞受賞ほか2部門ノミネート/全米批評家協会賞助演男優賞受賞 ほか多数受賞・ノミネート

【2020年7月11日から7月24日まで上映】

ラスト13分。映画史を変えるのは——この二人

リック・ダルトンはハリウッドで俳優として再び栄光を取り戻そうとしているちょっと落ち目のTV俳優。そんなリックを支えるクリフ・ブースは彼のスタントマン兼付き人であり、親友でもある。ふたりは長い間コンビを組んで仕事をしてきたが、1969年のハリウッドは大きな過渡期を迎えており、時代は彼らを必要とはしなくなっていく。

そんなある日。リックの隣家に時代の寵児ロマン・ポランスキー監督と新鋭の女優シャロン・テート夫妻が引っ越してきた。落ちぶれつつある二人とは対照的な輝きを放つふたり。そして、1969年8月9日——それぞれの人生を巻き込み映画史を塗り替える【事件】は起こる。

レオ&ブラピ初共演! タランティーノが映画の夢を詰め込んだ60年代ワンダーランド

本作は、クエンティン・タランティーノ自身が幼少期を過ごした60年代のハリウッド黄金期最後の瞬間を郷愁とリスペクトを込め、5年の歳月を費やして脚本を執筆し、監督を務めた。彼は本作を過去8作品の集大成であると語る。ハリウッド史上最強の豪華キャストも話題となった。『ジャンゴ 繋がれざる者』でタランティーノ監督作初出演となったレオナルド・ディカプリオと、『イングロリアル・バスターズ』で同監督作初出演を務めたブラッド・ピットの2大スターが初顔合わせをはたした。

今回タランティーノ映画のミューズに選ばれたマーゴッド・ロビーが演じるのは、実在の人物シャロン・テート。彼女は実際に1969年ハリウッドの自宅で友人とともに惨殺された。この事件は今もハリウッド史上まれに見る悲劇として語り継がれている。さらにアル・パチーノやブルース・ダーンらハリウッドの重鎮を筆頭に、ダコタ・ファニング、故ルーク・ペリーら新旧実力派の選りすぐりの顔ぶれが脇を固めている。