2025.05.08
【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

「ピエール・エテックスとアニー・フラテリーニ」
今年の2月に上映しましたピエール・エテックス監督特集。短編・長編合わせて7作品ありました。コミカルなのにどこか切ない感覚、エテックス監督自らが演じているキャラクターの愛らしさも含め、どの映画もとても素晴らしかったです。また音楽も印象的で、個人的には『大恋愛』(1968)の冒頭の曲が記憶に残っています。上空から撮影された街を背後にタイトルクレジットが表示されるのですが、そこで使われている歌がとても良いのです! 穏やかで優しい歌にどこか夢心地になりながらも、はっと目を覚ますような場面になり、またゆっくり夢の中に戻っていくといった感じがなんともたまりません。こちらは「Les heures tournent」(時が刻む)という曲で、歌っているのは劇中でエテックス監督の結婚相手役として出演しているアニー・フラテリーニです。その後この二人はなんと実際に結婚することになります。
パンフレットに寄稿されているコラムによると、アニー・フラテリーニは伝説的な道化師トリオの孫として生まれ、12歳でサーカスデビュー、20歳でジャズシンガーや役者として舞台に立っていたらしく、かなりマルチな活動をしていたようです。エテックス監督自身も、役者、イラストレーターと多才であることを考えると、この二人がいれば大体のことはなんでもできてしまいそうですよね。
さらに驚いたのはアニー・フラテリーニに道化師としての才能を見出したエテックス監督は1971年に二人でサーカスの世界に戻りツアーを始めます。しかしそのツアーでフランスのサーカスが衰退しているのに気づいた二人は文化大臣にサーカスの学校設立が急務だと訴え、1974年に補助金を受け国立のサーカス学校「ヌーヴォ・シルク・ドゥ・パリ」を開校。のちにアニー・フラテリーニ・サーカス学校となっていったとのことです。
まさに監督作『ヨーヨー』(1964)で描かれていた世界観そのまま! もう映画の話なのか現実の話なのか分からなくなってしまうほどワクワクしてしまいました! 恥ずかしながら私は『大恋愛』を観るまでアニー・フラテリーニのことは知りませんでしたが、サーカスの世界ではレジェンドクラスの有名人だったんですね。ピエール・エテックスとアニー・フラテリーニが歩んだこの物語、どなたか映画化してくれないかなあ。
(ジャック)
©1968 – CAPAC