2024.05.02
【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック
「ロバート・クラムとテリー・ツワイゴフのバンド」
アメリカのアンダーグラウンド・コミックを代表する漫画家ロバート・クラムを追ったドキュメンタリー映画『クラム』(監督:テリー・ツワイゴフ)を3月末にレイトショーで上映しました。私は恥ずかしながら、クラムとツワイゴフが一緒にバンド活動をしていたことをこの映画に出会うまで知りませんでした。「R. Crumb AndHis Cheap Suit Serenaders」というグループで、3枚のアルバムを発表しています。ツワイゴフは2枚目のアルバムからチェロで参加していて、そのアートワークにもおそらくテリー・ツワイゴフであろう人が描かれています(このアルバムが発表されたのが1976年でツワイゴフは20代後半なのですが、見た目のイメージはあまり変わっていないように思えます)。こちらのバンドの曲は、戦前のブルースやラグタイムなどへの愛に満ちており、皆で集まって演奏することへの楽しさがあふれ出ている一方、陽気な曲からはもう存在しない古き良きものへの憧れになんとも心を締め付けられます。
さて『クラム』のパンフレットに寄稿されたコラムを読むと、どうやらクラムもツワイゴフもそれぞれの作品とは関係なしに20年代のブルースやジャズ音楽ファンにとっては有名だったとのことで、その時代の曲の編集盤のジャケット裏には彼らの名前を見かけることがあったとのこと。ツワイゴフがどのように関係しているのか確認してみると、なんとそういった編集盤のライナーノーツを担当していたり、ジャケットに使われている白黒写真に色を塗ったりしていたようです。それらの音源を聞くことができるのは彼らの小さなサークルのおかげらしく、まったく知らなかった情報に驚愕しています。
ちなみにCheap Suit Serenadersの音楽が他の映画に使われているのかどうか調べてみると、田舎を訪れたある男が、そこで奇妙な人間関係に巻き込まれていく不条理サスペンス・スリラー映画『Uターン』(1997)に「Chili Blues」と「Hula Girl」という曲が使われているようです。監督はオリバー・ストーンなのですが、一体どのような関係が…。もしかしてオリバー・ストーンも戦前のブルースが好きなのか、それともCheap Suit Serenadersがアルバムを発表したレーベルがNYにあるので、同じくNY出身であるオリバー・ストーンも何か関係があったのか、はたまたアメリカの歴史と社会を鋭く描く作風だと思うので、そのリサーチ途中で遭遇したのか…といつもながら妄想がはかどります。どんな出会いがあったのか気になりますね。
R. Crumb And His Cheap Suit Serenaders
『R. Crumb And His Cheap Suit Serenaders』(1974)
『Number Two』(1976)
『Number Three』(1978)
(ジャック)