2023.11.02
【スタッフコラム】わが職場の日常 by KANI-ZO
「豪華ラインアップ」
早稲田通りの大きな葉の茂ったプラタナスもこれからの落葉に備えて、剪定が行われている今日この頃。体感的にも涼しくなり、夏から気になっていたけれど、暑さで断念していた早稲田松竹の看板に書いてある「豪華ラインアップ」の擦れた文字の補修を行いました。
当館の看板は、畳一畳分ほどの板が3枚入り、3週分のプログラム情報がはめ込んであります。上映が終了すると新しいものが加わるという、今ではあまり見かけないアナログな差し替え式の看板です。看板のデザインは早稲田松竹で行い、看板屋さんが印刷とはめ込む板を制作してくれます。1993年の劇場の改修工事の際に、今の場所に移設されたのですが、元々は当館入り口脇の植木の場所にありました。この看板がいつからあるのかは不明ですが、35年前の写真には写っているので私と同じ昭和生まれです。
とある日の夜、そんな昭和の風景が早稲田松竹に甦ったことがありました。当館もロケ場所で協力した『月の満ち欠け』の撮影の時です。私は、撮影準備の様子を受付から見ていたのですが、美術さんと大道具さんが当館の看板を植木側に設置しています。映画の時代背景が昭和後期なので、その懐かしい装いに早稲田通りを行き交う人々が何人も足を止めます。「懐かしいね」や「『アンナ・カレーニナ』と『東京暮色』やるのかい?」「二本立て400円!?」と設置に立会をしていた支配人へ、声をかけているのが印象的でした。
昔から、看板の形や「豪華ラインアップ」の書体は、今と変わりありません。秋の心地よい日差しの中、補修を行うため脚立で上がり近くで見てみると、ペンキで塗った文字が経年劣化で擦れ、筆塗りした刷毛の跡が浮き出していました。当時の職人さんは、筆で書いたのでしょう。オリジナルの書体を残したかったので、マスキングを行いましたが、手書きの独特の曲線をマスキングするのに苦労しました。ペンキを塗り、半乾きの状態でマスキングをはがすと、キレイでシャープになった書体が甦りました。
「うぁー、うぁー、気持ちいい!」
思わず作業していたスタッフも声が出てしまいます。作業を終えると、看板も少し若返って元気になった感じがします。これからも早稲田松竹の“豪華ラインアップ”を紹介しながら外から見守ってくれるでしょう。
古いものを補修やメンテナンスすると作られた当時のことや、どんなふうに使われてきたかを感じることがあります。早稲田松竹には、多くの人に長く大切に使われてきた物が沢山残っています。看板の補修をしながら70年の時の流れを感じました。
(KANI-ZO)