【2023/2/11(土)~2/17(金)】『月の満ち欠け』+『東京暮色』/『アンナ・カレーニナ』 // 特別レイトショー『女と男のいる舗道』

ぽっけ

「『月の満ち欠け』と巡る名画座・早稲田松竹」

この冬に公開された『月の満ち欠け』は当館で撮影されたシーンがいくつかある映画です。劇中では80年代の早稲田松竹の外観が再現されただけでなく、高田馬場の駅前など、現在の姿を知っている人にとってもなぜか心地よい懐かしさを誘う映画になっています。劇中で三角哲彦(目黒蓮)が腰かけるガードレール。歩道を挟んで映画の中に建っている早稲田松竹の風景は、これからもずっと残り続けるのだと思います。

名画座は、日本全国でも数少くなった二本立てで旧作を上映する映画館です。当館では新しめの作品も上映しますが、今でも往年の名作上映のプログラムはとても人気があります。

今回は『月の満ち欠け』の上映に寄せて早稲田松竹にできることを考えて、劇中で三角と瑠璃(有村架純)が再会するきっかけになった作品『アンナ・カレーニナ』と、二人が劇中で早稲田松竹で鑑賞する『東京暮色』を上映します。さらに、原作でも瑠璃のモチーフとなっているアンナ・カリーナ主演、ジャン=リュック・ゴダール監督作『女と男のいる舗道』をレイトショーにセレクトしました。

スクリーンを見つめる瑠璃の姿は、『女と男のいる舗道』でアンナ・カリーナが『裁かるゝジャンヌ』を観ながら、すっと涙をこぼすシーンを彷彿とさせます。

世界中にある映画館のスクリーンは一体いままでどれだけ多くの人たちに見つめられてきたのでしょうか。そしてまた、その数だけスクリーンが数多くの人々の表情を見つめてきたのだと想像すると、映画と観客の向き合う時間を作り出してきた映画館というカタチの強さと、そこに思いを馳せる人々の情熱に胸を打たれてしまいます。

一週間だけの特別な上映ではありますが、できればこれからも皆さまの映画巡りの近くに名画座がありますように。

月の満ち欠け
Phases of the Moon

廣木隆一監督作品/2022年/日本/128分/DCP/シネスコ

■監督 廣木隆一
■原作 佐藤正午『月の満ち欠け』(岩波書店刊)
■脚本 橋本裕志
■撮影 水口智之
■編集 野本稔
■音楽 FUKUSHIGE MARI

■出演 大泉洋/有村架純/目黒蓮/ 柴咲コウ/伊藤沙莉/田中圭/菊池日菜子/寛一郎/波岡一喜/安藤玉恵/丘みつ子

©2022「月の満ち欠け」製作委員会

【2023/2/11(土)~2/17(金)上映】

生まれ変わっても、あなたに会いたい――

仕事も家庭も順調だった小山内堅の日常は、愛する妻・梢と娘・瑠璃のふたりを不慮の事故で同時に失ったことで一変。深い悲しみに沈む小山内のもとに、三角哲彦と名乗る男が訪ねてくる。事故に遭った日、小山内の娘が面識のないはずの自分に会いに来ようとしていたこと、そして彼女は、かつて自分が狂おしいほどに愛した“瑠璃”という女性の生まれ変わりだったのではないか、と告げる。

【愛し合っていた一組の夫婦】と、【許されざる恋に落ちた恋人たち】。全く関係がないように思われたふたつの物語が、数十年の時を経てつながっていく。それは「生まれ変わっても、あなたに逢いたい」という強い願いが起こした、あまりにも切なすぎる愛の奇跡だった――。

第157回直木賞受賞の感涙のベストセラー小説、待望の実写映画化!

2017年に第157回直木賞を受賞し、累計発行部数56万部を超えるベストセラー小説「月の満ち欠け」。著者・佐藤正午の最高傑作と名高い純愛小説が、遂に実写映画化。監督は『余命一か月の花嫁』、『ストロボ・エッジ』など、リアルな人間描写と圧倒的な映像美に定評のある廣木隆一。脚本を『ビリギャル』、『そして、バトンは渡された』他、コメディから感動作まで幅広いジャンルを手がける実力派、橋本裕志が務める。

主人公・小山内堅にはNHK大河ドラマでの好演も記憶に新しい、大泉洋。そして小山内の娘と同じ名を持ち、物語の鍵を握る謎めいた女性、正木“瑠璃”に有村架純。27年前に“瑠璃”と許されざる恋に落ちる大学生、三角には単独での映画初出演となる目黒蓮(Snow Man)。そして小山内の最愛の妻・梢には柴咲コウ、その娘・瑠璃には新鋭、菊池日菜子。その他にも田中圭、伊藤沙莉と、日本映画界が誇る超豪華実力派キャストが集結した。

アンナ・カレーニナ
Anna Karenina

ジュリアン・デュヴィヴィエ監督作品/1948年/イギリス/110分/DVD/スタンダード

■監督 ジュリアン・デュヴィヴィエ
■原作 レオ・N・トルストイ
■脚本 ジャン・アヌイ/ガイ・モーガン/ジュリアン・デュヴィヴィエ
■撮影 アンリ・アルカン

■出演 ヴィヴィアン・リー/ラルフ・リチャードソン/キーロン・ムーア/ヒュー・デンプスター/メアリー・ケリッジ

提供:IVC

【2023/2/11(土)~2/13(月)上映】

誰よりも美しいヴィヴィアン・リーが世界文学史上不滅のヒロインを演じて世界を魅了した名作!

『風と共に去りぬ』のスカーレット役ヴィヴィアン・リーが、たぐいまれな美貌と気品、舞台で鍛えた演技力を結集して、いくたびも映画化されたトルストイのアンナ・カレーニナの集大成的キャラクターを築きあげた。愛のない結婚生活を送る貴族夫人アンナは若い伯爵に胸のときめきを押さえがたく、道ならぬ不倫にのめり込む…。フランス映画を代表する巨匠ジュリアン・デュヴィヴィエは、アンナの恋を浮き彫りにして、悲劇のラストへまっしぐらに盛り上げる。

東京暮色 4Kデジタル修復版
Tokyo Twilight

小津安二郎監督作品/1957年/日本/140分/DCP/スタンダード

■監督 小津安二郎
■脚本 野田高梧/小津安二郎
■撮影 厚田雄春
■美術 浜田辰雄
■音楽 斎藤高順

■出演 原節子/有馬稲子/笠智衆/山田五十鈴/高橋貞二/田浦正巳/杉村春子/山村聡/信欣三/藤原釜足/菅原通済

©1957松竹

【2023/2/14(火)~2/17(金)上映】

妊娠した未婚の娘が偶然出会った女は、死んだと聞かされていた実の母だった…。

杉山周吉は銀行の監査役をつとめ、雑司ヶ谷の一角で、次女の明子とふたりで静かに暮らしている。ところが最近は、長女の孝子は夫との折り合いが悪いらしく、子供を連れてたびたび実家に帰ってくる。その上、明子はだらしのない恋人の子を身ごもり、密かに堕胎までしていた。

その頃、五反田のとある麻雀屋の女主人喜久子が明子のことを尋ねまわっていることを聞き、明子はその女性が死んだと思っていた実母であることを知る。喜久子は、周吉が京城に赴任していた時の部下と深い仲になり、周吉と幼い娘達を残して、出奔していた過去があったのだった…。

東京という街で生きる、不完全な家族の孤独――小津映画の中でも異彩を放つ、悲痛に満ちた物語。

『早春』に続いて野田高梧と共に執筆された本作は、小津にとって最後の白黒映画であるが、その内容の暗さからしばしば二人の間で意見が対立し、野田は完成した作品に対しても終始否定的であったという。小津は一貫して、母のいない家族や子供を亡くした家族など、なにかが足りない家族像を描いてきた。しかし家族に欠員のある事情に就いて、作中で深く詮索することはなかった。そのような作品系譜の中で「事情」そのものを主題に据えたこの映画は、特に異例の作品だといえる。

話のモチーフは、当時流行していたジェームズ・ディーン主演の『エデンの東』だとされるが、あまりに救いのない陰鬱とした内容に、小津の自信と執着にもかかわらず、世評は『東京暮色』を失敗作だとみなした。しかしながら、小津に潜むある種の葛藤を暗喩しているかのような、生々しい登場人物の内面描写を描いた本作は、東京に生きる人間の孤独や悲哀に満ち溢れており、公開から60年以上が経った今、観る者に忘れ難い余韻と詩情を残している。

【特別レイトショー】女と男のいる舗道 4Kデジタル・リマスター版
【Late Show】Vivre Sa Vie

ジャン=リュック・ゴダール監督作品/1962年/フランス/85分/DCP/スタンダード

■監督・脚本 ジャン=リュック・ゴダール
■製作 ピエール・ブロンベルジェ
■撮影 ラウル・クタール
■編集 アニエス・ギュモ
■音楽 ミシェル・ルグラン

■出演 アンナ・カリーナ/サディ・レボ/アンドレ・S・ラバルト/ギレーヌ・シュランベルジェ/ペテ・カソヴィッツ

■1962年ヴェネチア国際映画祭審査員特別賞受賞

©1962.LES FILMS DE LA PLEIADE.Paris

【2023/2/11(土)~2/17(金)上映】

「『女と男のいる舗道』は数多くの頭、数多くの目、数多くの心のうえを通り過ぎる。これは純粋な傑作であり、 初の完全無欠なゴダール映画である」 ――ジャン・ドゥーシェ

パリのあるカフェ。ナナは別れた夫と疲れきった人生を語りあっている。現在の報告をしあって別れる。夢も希望もない。ナナはそんなある日、舗道で男に誘われ、体を与えてその代償を得た。そして彼女は古い女友達イヴェットに会う。彼女は街の女達に客を紹介してはピンはねする商売の女だ。ナナは完全な売春婦になった――。

『女と男のいる舗道』はゴダールの長編4作目にあたり、当時監督夫人だったアンナ・カリーナの代表作でもある不朽の名作である。そして最も素直な、ヒロインに対する愛情に満ちた作品だ。全体は十二の断章に分けられ、夫と別れた女主人公がアパート代に困って娼婦になるという簡潔なストーリーが順を追って淡々と語られてゆく。ゴダール映画の中でも最もわかりやすい作品とも言えるだろう。

主人公ナナの名は、巨匠ジャン・ルノワールのサイレント映画『女優ナナ』、そしてエミール・ゾラのヒロインの名の記憶を踏まえているのだろうか。

『小さな兵隊』『女は女である』に続いてゴダール映画に主演したアンナ・カリーナは撮影時21歳。ゴダールとカリーナは当時、結婚してからほぼ1年を迎える新婚夫婦だったが、既に二人の仲には深刻な亀裂が入り始めていたという。そうした精神状況を反映してか、カラー・シネマスコープ作品で陽気なミュージカルコメディだった『女は女である』とは一転し、本作は白黒・スタンダードで、全編が虚無と悲しみにつつまれている。

(94年公開時のパンフレットより一部抜粋)