2019.12.11

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その39 ミア・ファローと『ジョンとメリー』

ミア・ファローの名前は良くも悪くも80年代から10年ほど続いたウディ・アレンとの蜜月時代と、その酷い終焉と共に記憶されてしまっています(この事件の詳細は彼女の自伝を読むとわかりますが、知れば知るほど気が滅入ってくるのでライトなファンにはお勧めしません…)。確かにウディ作品の彼女も素晴らしいのですが、ミアの才能の開花はなにもウディによってもたらされたわけではありません。『ローズマリーの赤ちゃん』(68)や周防正行監督も生涯のベストに挙げる『フォロー・ミー』(72)など、特に60年代~70年代はじめの出演作はどれもミアの好演と共に記憶される秀作ばかりです。その中でもおそらく最も野心的かつ先見的なのがピーター・イェーツ監督『ジョンとメリー』(69)です。

パーティで出会いお互いの名も知らないまま何となく一緒に朝を迎えた男(ダスティン・ホフマン)と女(ミア)の一日を描く本作は、シンプルな外見とは裏腹にかなり特異なラブストーリーです。ぎこちなく取り繕った会話で互いの腹を探り合い、時に上の空になって思い出にふけるふたりの心象風景が、複雑に入り乱れる内的モノローグや、現在時制に織り込まれ溶け合っていく過去と未来の映像・音響のポリフォニーから活き活きと浮かび上がるのです。孤独なふたりがいつしか相手を受け入れていく心の軌跡を、前作『ブリット』(68)の大迫力カーチェイスシーンに負けないほどスリリングかつ繊細に描き出したピーター・イェーツ監督の大胆な演出センスが光ります(見事な編集は『ブリット』でアカデミー賞を受賞したフランク・P・ケラー)。

本作は『キャッチ22』(70)や『スローターハウス5』(72)、そして何よりアレンの『アニー・ホール』(77)といった前衛性と娯楽性が合わさったオルタナティヴなアメリカ映画のひとつのひな型を作った重要な一本です(例えば、『ムーンライト』(2016)のバリー・ジェンキンス監督の処女長編作『メランコリーの妙薬』(2008)は明らかに『ジョンとメリー』のオマージュ映画)。ミアの等身大で爽やかな好演、過去・現在・未来の中でコロコロと変っていくキュートな60sファッションやヘアースタイルはファンならずとも必見。

ミア・ファローは現在74歳。色々と波乱万丈な人生を送ったひとですが、現在では反トランプなどリベラルなメッセージを毎日つぶやくツイッターおばあちゃん(@MiaFarrow)としてばりばり活動中。元気そうでなによりです。

(甘利類)