2018.10.18

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

韓国映画と虎

最近、韓国の動物園からピューマ(スポーツブランド「PUMA」の社名の由来となったネコ科の動物)が逃げ出す椿事がありました。生き物に関するニュースを日々チェックしている私にはただでさえ見逃せないニュースですが、この出来事が私の目を引いたのには、もう一つ理由があります。去る5月にソウルへ映画旅行に行った時に観た『虎より怖い冬の客』という作品を思い出したのでした。恋人に突然捨てられた売れない小説家の男が、酔い客の代行運転で食いつなぐ八方塞がりの日々を送るストーリーです。冒頭では、動物園から虎が脱走したニュースが世間を騒がせていて、終盤、この“逃げた虎”が男の陰鬱を打ち砕くことになるのです(残念なことに、ピューマはつかまえられず射殺されてしまいましたが…)。

そもそも虎は、韓国にとって大切な動物。現実に朝鮮半島の虎は絶滅してしまいましたが、そんな希少性も相まって、虎は古くから今に至るまで山霊として人々から畏敬の念を抱かれています。

虎がよくモチーフにされる韓国映画には、『隻眼の虎』という映画もあります。日本統治時代、朝鮮最後の狩りの名手と謳われながら、あることがきっかけで銃を捨てた猟師マンドクと、“山神様”とおそれられる片目の巨大虎との死闘を描いた歴史アクション映画です。 “孤高のハンター”マンドクにベテラン俳優チェ・ミンシクが扮し、いぶし銀の名演をみせてくれていますが、主役は何と言ってもCGの虎。吹雪になびくやわらかい毛並みや仔虎の愛らしい仕草、谷に轟き渡る大虎の咆哮と人に襲い掛かる猛々しさなどが大変写実的に作られています。

監督のパク・フンジョンは『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日間』を参考にしたそうです。予算はその11分の1しかありませんでしたが、「リアルに表現できなければ公開するつもりがなかった」と語るほど、虎の再現にこだわったそうです。何より、撃たれて死んだ我が子を大虎が撫でて悼む様子が、生き物偏愛家の涙腺を刺激します。虎の子育ては母親のみがかかわり、父親をふくむオスは本能的に仔虎を殺すこともある一方、大事にして手離さないことのたとえで「虎の子」と言うほど、親虎は仔虎を可愛がるそうです。日本の軍隊まで動員した大規模な山狩りで起こる、虎の人間襲撃シーンは大変血なまぐさく、パニック映画のようですが、全篇の根底にあるのはマンドクと彼の息子、大虎とその子供の姿とが重ね合わされた、親子二代の因縁物語なのです。

マンドクと大虎、互いに大事なものを失い心身がくたびれ果てた一人と一頭の誇りが対峙し、ぶつかり合うラストは重く胸に来すものがあります。地味でありながら意外な風格を漂わすこの映画を、私は気に入っています。

(ミ・ナミ)