2022.10.13

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック 

『コーダ あいのうた』の音楽

先日上映しました『コーダ あいのうた』。4人家族の中で唯一耳が聞こえる少女を主役とした物語なのですが、私はとても感動してしまいました。使われていた音楽もすばらしく、音楽映画としてもかなり好みだったのですが、その中で一曲だけ趣が違うものがあったように思います。それはThe Shaggsというグループの「My Pal Foot Foot」という曲です。

The Shaggsは60年代末に姉妹で結成されたアメリカのガールズバンドで、祖母の占いを信じた父親によって、強引に結成されました。しかし音楽的な知識もなく演奏も拙いため、各パートのリズムがどんどんずれていくという、かなり固有な音楽になっています。「下手」と一言で言い切ることもできるのかもしれません。しかし常識にとらわれることなく、自分たちのアイディアで作られた彼女たちの音楽は、私に強い印象を残しています。それぞれが各パートに何かを強要するのではない自由さと純粋さ。実物のものとして、決して見ることのできない家族間の関係性という抽象的なものが、音楽として形になっているのだと思っています。そういった意味で『コーダ あいのうた』で流れていた「My Pal Foot Foot」(ファーストアルバム『Philosophy of the World』収録)のことを鑑賞後思い返すと、映画の物語とリンクしているように思われ、妙にジンときてしまいますね。

ちなみに75年に父親の死後、バンドはすぐに解散したのですが、80年にインディー・レーベルから『Philosophy of theWorld』が再発売されたことによって知名度が上がり、のちにカルト・バンドとして評価されます。いち早く彼女たちに注目していたフランク・ザッパは「The Beatlesよりも彼女たちは優れている」と発言し、Nirvanaのカート・コバーンは、マイベスト・アルバムの第5位に『Philosophy of the
World』を挙げています。その後、未発表曲などをまとめたセカンドアルバム『Shaggs’ Own Thing』が発売。個人的には演奏技術が向上しているこちらのアルバムのほうが、彼女たちの音楽の本質に触れやすくなっているのでは、と思っています。

さて余談ですが、驚いたことになんとThe Shaggsの歴史を描いたミュージカルがロサンゼルスやニューヨークで公演されていたとのこと! 音楽そのものも独特ですが、バンド結成の物語もかなりユニークな彼女たち。決して真似することのできない彼女たちの魅力は今なお色褪せることはありません。

The Shaggs『Philosophy Of The World』(1969)
The Shaggs『Shaggs’ Own Thing』(1982)

(ジャック)

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