2018.11.15

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

「ムーンドッグとコメディ映画」

先週まで上映していたトッド・ヘインズ監督の新作『ワンダーストラック』。まるでその場にいるかのように昔のニューヨークが巧みに描かれていたのですが、個人的には過去に同監督特集で上映した『アイム・ノット・ゼア』(07)で描かれるニューヨークが印象に残っています。というのも一瞬ではありますが、街の中でヴァイキングの格好をした男が立っている描写があるからです。

おそらくその男は40年代から60年代にニューヨークで活動していたストリート・ミュージシャン、ムーンドッグを参考にしています。マンハッタンの53丁目と6番街の交差点で、角突きの帽子とマント、手には槍という異様な格好で活動していたため、「6番街のヴァイキング」として知られていたようです。私自身も、独特のリズム、クラシックともジャズとも形容できない唯一無二の音楽に夢中になりました。初めて手に取ったCDはまさに『6番街のヴァイキング』というタイトルのベストアルバムなのですが、店頭に並んでいた時のジャケット(ヴァイキングの格好で立っている男と普通に隣を通り過ぎる男女のペアの写真)に興味をそそられ、何も知らずに購入したのを覚えています。

その中でも耳に残るのは「Lament 1 ’bird’s Lament’」という曲で、調べてみるとやはりこの曲が映画やテレビのサウンドトラックとしてよく使われているようです。私は未見ですが、多くのコメディ映画を手掛けているジャド・アパトーが原案・製作の『スモーキング・ハイ』(08・未)という映画に使われています。まさかの組み合わせに驚いていますが、これは観なければ。また「Stamping Ground」という曲はなんとコーエン兄弟の『ビッグ・リボウスキ』(98)に使われています。改めて観直してみると、そもそもこの映画、なんて絶妙な音楽チョイスなんだ! ムーンドッグが選ばれていてもおかしくないなと思いました。

それにしても私が好きだからでしょうか、何だかコメディによく使われているように見えます。ムーンドッグのよくわからないけど、かたくなでもあり、それでいてどこかチャーミングでもある楽曲の魅力と、人生の悲喜こもごもをユーモアと笑いで包むコメディとが、もしかしたら親和性があるのかもしれません。

(ジャック)