2018.12.20

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その30 アニセー・アルヴィナと『フレンズ/ポールとミシェル』『快楽の漸進的横滑り』

恋に落ちた14歳の少年少女が家出をし、田舎で懸命に生きる姿を描いたルイス・ギルバート『フレンズ/ポールとミシェル』(71)は、やさしい詩情を湛えた青春映画の名作であり、少女ミシェル役アニセー・アルヴィナの魅力は今見ても色褪せません。その清潔な美しさと肢体の生命力は陳腐になりそうな物語にリアリティを与えただけでなく、若さだけではどうにもならない現実の切なさを見事に際立たせていたと思います。

ヌードも辞さないこの初主演でアニセーは特に日本で大人気になり、80年代初めまでの映画雑誌には彼女の写真が頻繁に掲載されるようになりました(全盛期には月に100通ほど日本から彼女の元にファンレターが届いたとか)。とはいえ『フレンズ』以外の出演作の多くが実は当時日本未公開。ゆえに日本人の中ではアニセーはずっと健気で愛らしいミシェルのままだったかもしれませんが、『フレンズ』のわずか3年後にはとんでもなくスキャンダラスな作品に出演していました。

それがアラン=ロブ・グリエの前衛映画の傑作『快楽の漸進的横滑り』(74)。本作でアニセーはレズビアン関係にあった同棲相手を殺害した容疑で逮捕されますが、発言を二転三転させるばかりか、やたら裸身を晒して暗に誘惑することで男たちを翻弄し、秩序を崩壊させていきます。彼女の振る舞いはポルノ的なクリシェを多用することで慣習的な(男性的な)劇映画の規律を破壊しようとするこの映画の挑発的な姿勢と重なり合います。

青春映画のアイドルにこんな役を演じさせるよこしまなセンスは本当に素晴らしいのですが(引き受けたアニセーもすごい)、そのスキャンダラスさが彼女のイメージを狭める遠因になってしまったのは否定できません。アニセーはその後役に恵まれず、80年代初めに引退(さらにその後一時的に復帰し散発的に活動したようですが)。2006年に53歳の若さでこの世を去ってしまいました。

『快楽の漸進的横滑り』は今まで日本では公開されていませんでしたが、最近やっと観られるようになりました。(もう一本出演しているロブ・グリエ監督作『危険な戯れ』もレンタルで観ることが出来ます)。ロブ・グリエ作品の蠱惑的なアニセーに魅了された方は、『フレンズ/ポールとミシェル』の健気で瑞々しい彼女もぜひ観て下さい。アニセーの魅力を知る人がもっと増えてくれれば、未だ世界的にDVD/BD化されていない『続・フレンズ/ポールとミシェル』(73)や実質的な引退作となってしまった高田賢三『夢・夢のあと』(81)などが日の目を見る日も近いはずです。

(甘利類)