2019.07.17

【スタッフコラム】しかまる。の暮らしメモ byしかまる。

第9回 「映画と建築の美味しい関係」

私がファッションと同じくらい映画を観る際に注目してしまうのが建築です。なかでも階段が好きで、物語の中で何気なく登場する美しい造形に目を奪われてしまいます。そんな建築好きな私が密かに“階段映画”と呼んでいる作品があります。それは、当館でも去年の秋に上映したポール・トーマス・アンダーソン監督の『ファントム・スレッド』です。1950年代のロンドンを舞台に、オートクチュールのデザイナー、レイノルズ・ウッドコックと彼のミューズであるアルマの怪しくも甘美なラブストーリーが描かれます。

この作品では、たびたび「家」がレイノルズの支配領域であることを示唆し、階段が物語を支える裏方的な役割を果たしています。私が一番気に入っているのは冒頭のシーン。天窓から差す光に照らされた螺旋階段と、お勤めにきたお針子さん達のリズミカルな動きが合わさり美の相乗効果が生まれています。注目したいのは、あえて下から撮ったと思わせるカメラワークです。建築が生み出す光の美しさを的確にとらえた素晴らしいカットで、初めて観た瞬間に心を奪われてしまいました。そしてこのシーン以外にもレイノルズが常に上に位置して客人を迎える構図が度々登場し、神経質で自分のペースを乱されたくない頑固な彼の性格がうかがえます。そして、物語はこの螺旋階段のようにクルクルと主従関係が入れ替わりながら、己の牙城を壊されたくないレイノルズとその城ごと彼を愛したいアルマの攻防が繰り広げられるのです。こんな風に作中で効果的に使われるなんて階段冥利に尽きるのではないでしょうか。

レイノルズの精神の牙城ともいえるこの家がどんな間取りなのか(セットだと思っていたので)気になり調べていたところ、家の中のシーンが全てイギリスのフィッツロイ・スクエアに実在する家で撮影されていたことが分かりました。1790年代に設計された古い建物で、白を基調としたジョージ王朝様式の荘厳なデザイン。居住空間の中には、7つの寝室と8つの受付室、浴室、屋上テラス、中庭があります。現代の暮らしに不向きなほど広い家ですが、このあたり一帯の家は内装を新しくして賃貸アパートや宿泊施設になっているようです。ちなみに撮影に使われた家に住人はおらず、現在1,500万ポンド(なんと日本円で約20億4000万円!)で売りに出されているそうです。一生かかっても手が届かないお値段ですが、間取りを眺めるだけならタダです。調べるうちに入手した図面を片手に作品を観るのもまた乙なのでは、と新しい楽しみを見つけたしかまる。なのでした。

間取りが気になる方はぜひこちらからご覧ください。
ダウンロードページ→http://www.i-brochure.com/portfolio/fitzroy-square/

(しかまる。)