2019.05.29

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

『遊星からの物体X』のシベリアン・ハスキー

早稲田松竹に勤め始めてもうすぐ2年が経とうとしています。私の動物への異常な偏愛ぶりが浸透したせいか、職場で日々生き物にまつわるおすすめ作品を教えてもらえるようになりました。そんな中、偶然にも二人の先輩からほぼ同時に「この映画の動物を観よ!」と強くすすめられた映画があります。先週早稲田松竹で上映していた『遊星からの物体X』(1982)。カーペンターファンの方にはおなじみ、「ドッグ・シング」ことシベリアン・ハスキー犬です。

冒頭、一頭のハスキー犬が、銃や手榴弾で狙い続けるノルウェーの観測隊が乗るヘリコプターから逃げています。何度か振り向いて弾を避けながら雪原を走るシークエンスのリアリズムといったら感動ものです。もちろん、最初から銃弾は当たらないように撮影しているので、カーペンター監督の演出力のたまものなのかもしれませんが、雪に足をとられて走りにくそうにしているところもふくめて「犬の役作りではないか?」と思わされるほど。

犬が基地の中に入り込み、徘徊するシーンでは、先輩から「確実に“何かに憑りつかれている”演技」という前情報をもらっていても、実際に目の当たりにしたときの衝撃はかなりのものでした。犬ではない何物かが犬の体(てい)をし、獲物を定めるように観測隊員たちにじっとりと視線を送り、息をひそめ、足音を立てないようそっと近づく所作の巧みなこと! カート・ラッセルを向こうに回す力演に、肌が粟立つのを抑えられませんでした。

ちなみに本作の前日譚を描いた『遊星からの物体X ファースト・コンタクト』(2011)では、寒い地域で活躍する犬種ではなく、ドイツの牧畜犬ロットワイラーを使ったドッグ・シングがデザインされていました(残念ながら本編では登場しなかったようです)。http://karapaia.com/archives/52228410.html

このハスキー犬(ジェド)は、のちに映画『ホワイト・ファング』(1992)でも起用されています。若き日のイーサン・ホークが扮する孤独な青年と、狼と犬のミックス「ホワイト・ファング」の固い絆を描いた、偏愛家むせび泣き必至の名作です。2作品でも起用されるなんて、やはり彼は「天才俳優」だったのですね。

(ミ・ナミ)