早稲田松竹クラシックスvol.148/ジョン・カーペンター監督特集+特別レイトショー『恐怖の報酬 オリジナル完全版』

ルー

カーペンターは常に「驚き」と共にある映画作家です。
『ゼイリブ』の、人間界に潜んだ宇宙人の姿を見た主人公のとる信じられない行動や、真実を見ることを拒否する同僚との破格な格闘シーン。あるいは『遊星からの物体X』の切り詰められた語りから突如噴出する「物体X」の衝撃的なおぞましさ。それらが生み出す驚きは人知を越えた崇高さを帯びる領域にまで達し、私たちをどうしようもなく魅了します。

ただひとりJ・カーペンターだけが「映画は要するにこの程度で良い」と明確に断言する。この人は、実はもう三十年近くもそれだけを主張しつづけてきた。何でもありだムチャクチャやってやれ、と息巻く作家たちの奥で、カーペンターが静かに「いやちがう」と言い、娯楽と藝術のあいだに引き裂かれて右往左往する人々に「そういう対立はそもそもない」とまたしてもカーペンターが言う。ここ三十年近く、つまり七〇年代以降のアメリカ映画史とは要するにそれだった。
――黒沢清(「映画はおそろしい」所収の「全世界はジョン・カーペンターに頭を下げよ。」より)


ここで黒沢監督のいう「この程度でいい」は、無論「適当でいい」というふやけた態度とは対極なものだと思います。映画にはいたずらにごてごてとしたSFXも、今日的な問題を提示する壮大な人間ドラマも(少なくとも俺にとっては)いらない。約100年前にリュミエール兄弟によって史上初めて上映された、列車が駅に到着するだけの映画を見た人々が感じた原初的な驚きと興奮、恐怖を生み出すこと。それに向けて全力を傾けることこそ映画なのだ、という確信に満ちた態度に他なりません。

おそらくその頑なな態度ゆえに、近年彼が長い沈黙を余儀なくされていることは無念でなりませんが、私たちには素晴らしいカーペンター作品がいくつも残されています。特に今回上映する二作品がその最高峰に位置することは、多くのファンの方に同意していただけると思います。

全世界の人間は一度彼の前で「本当にありがとう」と頭を下げるべきだと思う。
――黒沢清(同上)


皆さんもぜひそれらを繰り返し発見し、来るべきカーペンターの新作に備えてください。

また今回はウィリアム・フリードキン監督渾身の大作『恐怖の報酬』をレイトショーにて上映します。『エクソシスト』によって映画における恐怖表現をネクストレベルに押し上げた映画作家によるこの作品も、カーペンター的アプローチとは違う形で「驚き」を連鎖させた偏執症的な作品です。ぜひカーペンター作品と合わせて鑑賞し、映画を観ることの原初的な歓びに浸ってください。

ゼイリブ 製作30周年記念HDリマスター版
THEY LIVE

ジョン・カーペンター監督作品/1988年/アメリカ/96分/DCP/シネスコ

■監督 ジョン・カーペンター
■原作 レイ・ネルソン
■脚本 フランク・アーミテイジ(ジョン・カーペンター)
■撮影 ゲイリー・B・キッブ
■音楽 ジョン・カーペンター/アラン・ハワース

■出演  ロディ・パイパー/キース・デヴィッド/メグ・フォスター/ジョージ・“バック”・フラワー/ピーター・ジェイソン/レイモン・サン・ジャック

©1988 StudioCanal. All Rights Reserved.

【2019年5月11日から5月17日まで上映】

あなたはもう、誰も信じられない——。

失業者のネイダは、仕事にありついた工事現場で作業員・フランクと親しくなり、彼の紹介で教会の用意したテントで寝起きするようになる。ある日、牧師たちが惨殺される現場を目撃したネイダは、教会内で町行く人が骸骨状の人間に見えてしまうサングラスを大量に発見する。

やがてこのサングラスが、普通の人間と、地球侵略を企む異星人とを見分ける能力を持っていると知ったネイダは、異星人と戦う同士たちと知りい、異星人とのゲリラ戦に身を投じるようになるのだった…。

「ゼイリブ」は歯止めの効かなくなった巨大な資本主義に対して大声で反対を唱える映画だ。——ジョン・カーペンター

ジョン・カーペンター監督の傑作カルトSF『ゼイリブ』製作30周年を記念して、<製作30周年記念HDリマスター版>が公開された。本リマスター版は日本独自でHDリマスタリングを敢行したもの。本編ノイズリダクション等画質リマスター&音声リマスターでより迫力ある美麗映像で甦る!

1988年に公開された『ゼイリブ』は、ジョン・カーペンター監督がサブリミナル効果による姿なき侵略を描いた傑作SFスリラー。異星人による地球侵略を、ごく一部の特権階級がマスコミや広告を牛耳り人々を洗脳、搾取していく姿として描いた本作。暴走する資本主義への痛烈な批判は、従順に飼い慣らされる一般大衆への警鐘として、製作から30年を経た現代の日本でもさらに生々しく鳴り響くであろう。

遊星からの物体X デジタル・リマスター版
THE THING

ジョン・カーペンター監督作品/1982年/アメリカ/109分/DCP/PG12/シネスコ

■監督 ジョン・カーペンター
■原作 ジョン・W・キャンベル・Jr「影が行く」
■脚本 ビル・ランカスター
■撮影 ディーン・カンディ
■音楽  エンニオ・モリコーネ

■出演 カート・ラッセル/ A・ウィルフォード・ブリムリー/T・K・カーター/ デヴィッド・クレノン/ キース・デヴィッド

©1982 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

【2019年5月11日から5月17日まで上映】

戦慄の一夜が始まる——

南極基地に現れた一匹の犬。その正体は10万年前に地球に墜落し、氷の下で眠っていた宇宙生物だった。接触した生物の細胞に同化、擬態を行うその生命体は、次々と隊員たちを襲い、基地の中へと侵入する。

およそ2万7000時間後には地球上の全人類と同化が完了するという試算結果に怯えた生物学者ブレアの手により、通信手段、交通手段を断たれ孤立した基地。一体誰が本物で、誰が‟物体X‟かわからないという究極の状況下で、疑心暗鬼に陥る12人の隊員たちは死と隣り合わせの混乱の一夜を迎える…。

SFホラーの至宝!ジョン・カーペンター監督の最高傑作が鮮やかに甦る!

SFホラーの傑作として熱狂的な人気を誇り、全世界的に多大な影響を与えてきたジョン・カーペンター監督『遊星からの物体X』がデジタル・リマスター版として復活した。南極基地に現れた恐怖の宇宙生物と12人の隊員たちの死闘を描く本作は、巨匠ハワード・ホークス製作『遊星よりの物体X』のリメイクで、原作はジョン・W・キャンベル・Jr. によるSFスリラー小説「影が行く」。数々のSF、ホラーの名作で知られるジョン ・カーペンター監督が、映画製作を志すきっかけとなった古典の名作をリメイクした。

主演は『バックドラフト』『ヘイトフル・エイト』のカート・ラッセル。カーペンター監督との親交は厚く、本作がきっかけでハリウッドの第一線で活躍するようになった。未知の生物の造型を手掛けたのは、後に『 ロボコップ』や『ミッション:インポッシブル』などを手掛けることになる当時弱冠22歳のロブ・ボッティン。おぞましく斬新なクリーチャーデザインは今なお高い評価を受け、後進のクリエーターに大きな影響を与えた。音楽はイタリアの名匠エンニオ・モリコーネ。

【特別レイトショー】恐怖の報酬 オリジナル完全版
【Late Show】SORCERER

ウィリアム・フリードキン監督作品/1977年/アメリカ/121分/DCP/ビスタ

■監督・製作 ウィリアム・フリードキン
■原作 ジョルジュ・アルノー「恐怖の報酬」
■脚本 ウォロン・グリーン
■撮影 ジョン・M・スティーブンス/ディック・ブッシュ
■編集・製作補 バッド・スミス
■音楽 タンジェリン・ドリーム

■出演 ロイ・シャイダー/ブルーノ・クレメル/フランシスコ・ラバル/アミドゥ/ラモン・ビエリ

■1977年アカデミー賞音響賞ノミネート

© MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

【2019年5月11日から5月17日まで上映】

密林の果てに地獄を見た——

南米奥地の油井で大火災が発生。祖国を追われ、その地に流れてきた4人の犯罪者は、ひとり1万ドルという「報酬」と引き換えに、わずかな衝撃でも大爆発を起こす消火用ニトログリセリン運搬を引き受ける。2台のトラックに分乗した男たちは、火災現場まで道なき道を300キロ、ジャングルの奥へと進んでいくが、その先に待ち受ける彼らの運命とは――。

巨匠フリードキンが自ら認める最高傑作!『地獄の黙示録』と双璧をなす1970年代屈指の超大作。

本作は、『エクソシスト』で全世界にオカルト・ブームを巻き起こした巨匠ウィリアム・フリードキンが、フランス映画史上の傑作、アンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の『恐怖の報酬』のリメイクに挑んだキャリア最大の野心作であり、1コマも修正する気にならないと豪語する最高傑作。

灼熱の熱帯雨林を舞台に、男たちの欲望、執念、裏切り、罪と罰、孤独と絶望のドラマが、冷酷非情なリアリズムで描かれる。荒々しくスケールの大きなサスペンス場面が連続する中、巨獣の如きトラックが、暴風雨に揺れる崩壊寸前の大吊り橋を渡るクライマックスは、手に汗握る緊張と興奮、驚異の臨場感で見る者を圧倒する。