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クエンティン・タランティーノ監督の作品には、
いつも過去の映画からの引用、オマージュが溢れかえっている。
だが、そこだけを見て彼を単なる能天気なオタク監督だと思うのは完璧に的はずれだ。

一見単なるやりたい放題に見せつつ、彼は彼なりのやり方で、
過去の偉大な映画の魂に近づこうと、自らの限界を一作ごとに大胆に更新しつづけてきた。
それは今回上映する2作品を続けて観ることで一層はっきりわかると思う。
映画がスマホで観られてしまう時代の感性に抗うかのように、
映画を映画館で「体験」すること、それ自体の多様性や豊かさが、
この2作品では徹底的に探究されている。

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デス・プルーフ in グラインドハウス
Quentin Tarantino's Death Proof
(2007年 アメリカ 113分 35o R-15 シネスコ/SRD) pic 2016年7月16日から7月22日まで上映 ■監督・製作・脚本・撮影・出演 クエンティン・タランティーノ
■製作 ロバート・ロドリゲス/エリザベス・アヴェラン/エリカ・スタインバーグ
■美術 スティーヴ・ジョイナー
■衣装 ニナ・プロクター
■編集 サリー・メンケ
■スタントコーディネート ジェフ・ダシュノー

■出演 カート・ラッセル/ゾーイ・ベル/ロザリオ・ドーソン/ヴァネッサ・フェルリト/ジョーダン・ラッド/ローズ・マッゴーワン/シドニー・タミーア・ポワチエ/トレイシー・トムズ/メアリー・エリザベス・ウィンステッド

■第60回カンヌ国際映画祭コンペティション部門正式出品

ドレスコードは、スリルとスピード

picテキサスの田舎町。人気女性DJ、ジャングル・ジュリアたちの背後に、スタントマン・マイクの影が忍びよる…。“デス・プルーフ(耐死仕様)”を施した改造シボレーを乗り回すこの男は、次々と女を口説いては凶器と化した愛車であの世へと送りこむ連続殺人鬼だった! しかし、この映画のヒロインたちは、やわなフツーの女とはわけが違う! まるで復讐映画のヒロインのように、恐怖と死のドライヴに真っ向から立ち向かうのだった…!

キーワードはBack to Back!
タランティーノが進化させる『グラインドハウス』

間違いなく2000年代最高の一本である『デス・プルーフ in グラインドハウス』は、映画の原初的な興奮に観る者すべてを誘う、魔法のようなフィルムだ。これを観るあなたは、ヒロインたちのしょうもないバカ話に呆れかえっているうちに、突発的に起こる大惨事に仰天し、そして雪崩込んでいく怒涛のアクションに手に汗握っている自分に驚くはず。「グラインドハウス」と呼ばれる、ストリップまがいの猥雑な空間で上映されていた低予算映画のデタラメな面白さを再現する、というコンセプトから出発しながら、本作は表面的なオマージュなどを遥かに超えた次元にまであっけらかんと到達してしまうのだ。

ENDが出る瞬間の圧倒的バカバカしさは、スクリーンで観れば拍手喝采したくなること受け合いだ(エンディングを飾るAPRIL MARCHの「Chick Habit」も鳥肌ものにカッコイイ!)。ひょっとしたらタランティーノの当初の目論みすら超えてしまったかもしれないこの感動を、映画の奇跡と言わずして何と言おう!

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ヘイトフル・エイト
THE HATEFUL EIGHT
(2015年 アメリカ 168分 DCP R18+ シネスコ)
pic 2016年7月16日から7月22日まで上映 ■監督・脚本 クエンティン・タランティーノ
■製作 リチャード・N・グラッドスタイン/ステイシー・シェア/シャノン・マッキントッシュ
■撮影 ロバート・リチャードソン
■美術 種田陽平
■衣装 コートニー・ホフマン
■編集 フレッド・ラスキン
■音楽 エンニオ・モリコーネ

■出演 サミュエル・L・ジャクソン/カート・ラッセル/ジェニファー・ジェイソン・リー/ウォルトン・ゴギンズ/デミアン・ビチル/ティム・ロス/マイケル・マドセン/ブルース・ダーン/ジェームズ・パークス/ゾーイ・ベル/チャニング・テイタム

■2015年アカデミー賞作曲賞受賞、助演女優賞・撮影賞ノミネート/ゴールデン・グローブ賞作曲賞受賞、脚本賞・助演女優賞ノミネート/英国アカデミー賞作曲賞受賞、助演女優賞・脚本賞ノミネート/ほか多数受賞・ノミネート

クセもの8人、全員ウソつき。
生き残るのは誰だ!

pic猛吹雪の夜、ロッジに閉じ込められた7人の男と1人の女。全員がワケありで見るからにアヤしげだが、特に目を引くのは手錠で腕をつなぎ合った男女だ。男は賞金稼ぎで、1万ドルの懸賞金のかけられた重罪犯でお尋ね者の女を連行する途中だった。ロッジに流れる不穏な空気から男は、この中に女の仲間がいるのではないかと警戒する。やがて偶然集まったかに見えた8人の過去が重なり始め、互いの疑心暗鬼が頂点に達した時、最初の死体が出る。しかしそれは、予測不能な密室殺人事件の始まりに過ぎなかった――。

ぶつかり合う「嘘」と「嘘」
やがて浮かび上がる予想外の「真相」――。
タランティーノが仕掛ける密室ミステリー!

pic タランティーノの最新作は、西部劇でありながら舞台が雪山の一軒家にほとんど限定された緊密な密室劇である。美術監督・種田陽平の手により細部まで作り込まれたセットの中で、腹を探りあう人物たちのやり取りを濃密な画面で縦横無尽に切り取っていく。その語り口は、いつも以上に鮮やかで贅を極めている。なにしろ本作では、かつて『ベン・ハー』『アラビアのロレンス』などの超大作で絶大な効果を上げていた70mm撮影技術がフル活用されているのだ。デタラメな面白さに溢れた『デス・プルーフ in グラインドハウス』とは対称的に、タランティーノが本作で大胆に「引用」するのは、かつての大作映画の大人の風格なのだ。

とはいえ、『エクソシスト』ばりに悪魔がかった怪演を見せるジェニファー・ジェイソン・リーを筆頭に、憎しみに満ちた登場人物たちが対立する物語は優雅とは言い難い。黒い笑いに満ちたこの西部劇は、アメリカ社会の過去だけでなく、人種差別などの不寛容の嵐に晒されつづけている現在、そして未来の可能性をも照らし出すグロテスクな寓話でもあるのだ。

円熟といって差支えないほどの充実した演出の妙と、いままで以上にダークで社会的内容を併せ持った本作は、タランティーノがまたひと回りスケールの大きい映画作家になったことを力強く告げる傑作だ。

(ルー)

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