2019.11.21
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:立冬(りっとう)、末候:金盞香(きんせんかさく)
暖かい日と寒い日が交互に訪れて、冬らしさが日増しに強くなっていきますね。小春日には、散歩するのが一番心地いい時期です。気の早い水仙がちらほらと咲き始める頃でしょうか。水仙は雪中花とも呼ばれ、寒く雪に覆われた地面に可憐に咲く姿は古くから春を告げる花として日本人に愛されてきました。しかし、なぜかその可憐な姿に似つかわしくない「自己愛・神秘」という花言葉を持っていることが気になって、ちょっと調べてみることにしました。
花言葉の起源は古くはトルコ、18世紀になってからは西欧諸国に紹介され、フランスの貴族社会で草花を題材にしたポエムが流行するなかで、1818年にシャルロット・ド・ラトゥールが出版した「花言葉」という花言葉辞典が今の花言葉のおおまかな起源にあたるそうです。花言葉には神話の物語が引用されることが多いのもやはりヨーロッパ発祥の部分が多いからでしょう。この水仙の場合は「ナルシシズム」の語源になった「ナルキッソス」という絶世の美少年の物語です。ナルキッソスに恋した森のニンフ・エコーが言葉を繰り返すだけしかできない姿を見て退屈だと見捨てたことで、エコーは悲しみのあまり肉体がなくなり、声だけの存在になってしまいます。そのことが復讐の神ネメシスの怒りを買い、ナルキッソスを自分しか愛せないようにしてしまいます。そして、水面に映った自分に恋をしてその場を離れることができずにそのまま死んでいったナルキッソスのそばに咲いていた花がこの水仙だったことから、花言葉の「自己愛」がつけられたと言われています。水辺に咲いて花を垂れる水仙の姿は、水面を覗き込む少年の姿によく似ています。
球根だけでなく全草が毒を含む水仙はヨーロッパではどこかダークなイメージを纏っているように思います(個人的には、ニホンスイセンの方がどことなく花も上向きで可愛く見える気がします。だからイメージが違うのかしら)。イギリス映画のマイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー監督による、デボラ・カー主演の『黒水仙』。この名前の花は元々存在しないのですが、映画のタイトルはキャロン社が1912年に発売した香水「ナルシス・ノワール」にちなんでおり、サスペンス映画の古典といわれるこの映画の印象を確固なものにしています。余談ですが、12月に上映する『恐るべき子供たち』の原作者であり、今年生誕130年を迎えるフランスの詩人・画家のジャン・コクトーの詩には「ナルキッソスの墓」という詩があります。この詩は鏡や両性具有的なイメージを作品のモチーフに取り入れることの多いコクトーのナルキッソスに対する解釈が垣間見えて面白いので、最後に紹介したいと思います。
ナルシスの墓(堀口大學訳)
その正体を現して
いまこの水に留まるは
世を欺いて生きたもの。
死があざけってやるために
いま裏がえしにして見せる
手袋の指同様に。
(上田)