2018.05.03

【スタッフコラム】早稲田松竹・トロピカル・ダンディー byジャック

名シンガーソングライター、ダンカン・ブラウン

デヴィッド・ボウイの大ヒットアルバム『Let’s Dance』(このアルバムの1曲目「Modern Love」はレオス・カラックス監督の『汚れた血』に使われていますね)には「Criminal World」というカヴァー曲が含まれています。実はこの曲は元々Metroというグループの曲なのです。デヴィッド・ボウイのダンサブルで洗練されたヴァージョンも好きですが、気怠く、退廃的で、妙な色気のあるオリジナル曲もとても魅力的な曲だと思っています。

そのMetroのメンバーにダンカン・ブラウンという人がいます。Metroというグループの前にもソロで活動しており、アコースティックギターで繊細な歌を歌っています。中でも「Duncan Browne」というタイトルのアルバムがとても大好きで、熟達したギターと歌声は心に染みるだけでなく、その後のMetroにも通じるポップさをかねそなえていると思います。シンガーソングライターの中でも個性的なのではないでしょうか。

気になって彼の曲がどんな映画に使われているのかを調べてみると、ミア・ハンセン=ラヴ監督の『あの夏の子供たち』(2009年)に使われているのを発見しました。「あれ、使われていたか?」と思い確認してみると、「Berceuse」という曲がクレジットされているようです。私は知りませんでした。

どうやらダンカン・ブラウンは後年テレビドラマの音楽を手がけているようで、1984年のイギリスのテレビドラマ『Travelling Man』の音楽を担当しています。なんと『あの夏の子供たち』で使われているのはこの『Travelling Man』のサントラの中の1曲だったのです。刑務所から出所した男が追っ手をかわしながら、離婚した妻と失踪した息子を宿泊用のボートで探すという内容のドラマらしく、家族や水辺というところがミア・ハンセン=ラヴ監督の作風をほんのりと想像させます。「Berceuse」という曲は予告編でも使われており、アコースティックギターの音色で、美しくどこかもの悲しい曲であるのが判明しました。この曲か!

前に紹介したジョナサン・リッチマンといい、ダンカン・ブラウンといい、なぜかことある事に『あの夏の子供たち』にたどり着いてしまいます。すばらしい映画自体とは別に、吸い寄せられてしまうのは不思議なことです。

『Metro』 Metro(1976)
『Duncan Browne』Duncan Browne(1973)
『Travelling Man』Duncan Browne & Sebastian Graham-Jones(1985)

(ジャック)