★このプログラムは4日間上映です。スケジュールにご注意ください。
1秒1秒未来を受け止め、1秒1秒過去にしていく。
全身に血を通わせ、発熱し、湿った息を吐く。
毎日は、こんな途方もない作業の連続で成り立っている。
誰にも例外はない。
今週上映する 『パリ20区、僕たちのクラス』 『あの夏の子供たち』には、
そんな人々の姿が等身大に描かれている。
死んだお父さんが実はアマゾンの奥深くに財宝を隠し持っていた!
クラスの先生が実はCIAのスパイだった!
そんなびっくりアドベンチャーやまさかの陰謀説はない。
どうにもならないことはどうにもならないまま、
ただただ普通の日常が紡がれていくだけ。
その地道な歩みの中には、
怒り、嘆き、悲しみ、喜び、笑い、憎み、愛し、
責め、ぶつかり、励まし、戦い、諦め、模索し、立ち上がる…
そんな私たちのドラマがある。誰もが抱える、日々の暮らしの中のドラマが。
いつの間にか寄り添うようにして感じる、
スクリーンに映る体温や呼吸。熱狂的な感動。
そして、ふと気づく。
私たち人間の複雑さ、冷酷さ、寛大さ、愛情深さはこんなにも胸を打ち、
人生とはこんなにも不完全で、美しいものだったのかと。
1秒1秒未来を受け止め、1秒1秒過去にしていく。この1秒を生き抜くために。
命きらめく映画。
私たち人間が当たり前に持つ生のエネルギーが、
物語を普遍に変えていく。
(ザジ)
あの夏の子供たち
LE PERE DE MES ENFANTS
(2009年 フランス 110分 ビスタ/SRD)
2011年5月7日から5月10日まで上映
■監督・脚本 ミア・ハンセン=ラヴ
■製作 ダヴィド・ティオン/フィリップ・マルタン
■撮影 パスカル・オーフレ
■出演 キアラ・カゼッリ/ルイ=ドー・ド・ランクザン/アリス・ド・ランクザン/エリック・エルモスニーノ
映画プロデューサーのグレゴワール・カンヴェルは、精力的に働く“仕事人間”ながら、妻シルヴィアと3人の娘たちを心から愛する良き家庭人でもあった。ところが、彼の会社はいまや火の車で、追いつめられたグレゴワールは最後に自ら命を絶つ道を選択してしまう。
やがてシルヴィアは、グレゴワールの遺志を継ぐ覚悟を固め、会社の再建と製作中だった映画の完成のために奔走する。一方、幼さゆえに父の死をよく理解できない次女と末娘に対し、年頃の長女クレマンスは、父の死を受け止めるべく彼女なりの形で悲劇と向き合っていく。幸せな日々が一転し、絶望の中で葛藤する母娘に訪れた新たな出発とは…。
尊敬していた映画プロデューサーの自殺という、監督の実体験から生まれた本作。ミア・ハンセン=ラブ監督は映画の随所に彼への想いを漂わせながらも、決して感傷に走ることなく、言葉にならない感情を映像に託した。郊外の別荘、旅行で訪れる町に注ぐ柔らかな陽光と、パリの街のイルミネーション。あるいは突然の停電に灯したロウソクの揺らめきや、月明かりと星々の煌き…。人生の苦楽、強さと脆さ、生への渇望と死への衝動など、対照的な要素が映し出す光と影の様式美は、それぞれが共鳴し合い、忘れがたい余韻を残す。残された遺族の悲しみに優しく寄り添うように、それでも続いていく人生の素晴らしさを指し示してくれる本作。先の見えない不況下で、ともすれば押しつぶされそうになる私たち現代人を支えてくれる珠玉の作品が誕生した。
パリ20区、僕たちのクラス
ENTRE LES MURS
(2008年 フランス 128分 シネスコ/SRD)
2011年5月7日から5月10日まで上映
■監督 ローラン・カンテ
■脚本 ローラン・カンテ/フランソワ・ベゴドー/ロバン・カンピヨ
■原作 フランソワ・ベゴドー『教室へ』(早川書房刊)
■出演 フランソワ・ベゴドー
■2008年ベルリンカンヌ国際映画祭パルムドール
舞台は、パリ20区にある中学校の教室。主な登場人物は、出身国も生い立ちも、将来の夢もバラバラな24人の生徒たちと、フランソワという名の一人の教師。カメラが追いかけるのは、1年間の国語の授業だ。移民であるため母国語を別にもつ生徒たちはもちろん、すべての10代の子供たちにとって、国語とは生きるための言葉を学ぶこと。それは、他人とのコミュニケーションを学び、社会で生き抜く手段を身につけることでもあるのだ。
言葉の力を教えたいフランソワにとって、生徒たちとの何気ない対話の一つ一つが授業であり、真剣勝負だ。彼は生徒たちを人として対等に扱おうとするあまり、彼らの未成熟さに苛立ちを抱いてしまう。生徒たちは、あまりにも率直なフランソワの言葉に、時には傷つき、反発し、時には勇気づけられる。弾けるような笑いと抑えられない怒りが、分刻みに交錯する多感な24人の生徒達と、教師とは何かを模索し続けるフランソワは、この1年間でいったい何を学ぶのか──?
フランソワを演じるのは、本作の原作となった「教室へ」の著者であるフランソワ・ベゴドー。また、24人の生徒役も、実際に中学校で希望者を募り、約7ヵ月間にわたって行われたワークショップを通じて選ばれた演技未経験の中学生たちである。
実に21年ぶりにフランス映画がカンヌ映画祭パルムドールを獲得した本作は、審査委員長を務めたショーン・ペンに「演技、脚本、すべてが魔法だ」と言わしめた。希望も絶望も同じくらい存在するこの世界で、それでも何かを学び取り、成長を成し遂げる子供たちの姿に、私たちは未来の希望を見出さずにはいられない。