2022.03.24

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

コロナ禍で気軽に足を運べなくなった、動物園や水族館。かくゆう私も、もう一年以上動物園へ行けておらず、仕事の休みを見つけては足繁く通っていた日のことを思い出しています。一方で水族館については、自分でも不思議なくらい、大人になってからは一度も行っていないほど疎遠な存在でした。水族館は、幼い頃に家族で行った記憶の方が強いのです。東京のしながわ水族館、横浜の八景島シーパラダイス、千葉の鴨川シーワールド…あんなに大好きだった水族館に足が向かなくなったのは、あの頃の楽しい思い出を、そのままそっとしておきたい気持ちがあるからかもしれません。

そんな生き物偏愛家でもあり映画ファンでもある私の涙腺を否応なく緩ませるとともに、子供の頃を思い返させてくれた映画が、早稲田大学映像制作実習とのコラボレーション上映2022で参考上映された、いまおかしんじ監督『れいこいるか』でした。神戸に暮らす夫婦の太助と伊智子は、愛娘のれいこを阪神大震災で失います。地震発生当時、伊智子は浮気の真っ最中で、喪失感としこりを残したまま2人は離婚してしまいます。伊智子は情にほだされるように男を取っ替え引っ替えし、彼女を陰ながら見守る太助も悪い偶然により人を殺めてしまい服役。出所した太助は伊智子と再会し、れいこの思い出が詰まった水族館へ出かけるのでした。

映画が撮影されたのは、神戸市立須磨海浜水族園。いまおか監督によれば、阪神大震災の前日、こちらのイルカショーでイルカがジャンプしなかったという都市伝説が本作のインスピレーションになったのだそうです。人間よりもはるかに予知能力がある動物たちが地震を察知したという話は多くありますし、体重に占める脳の割合が人間に次ぐイルカはとりわけ高い知能を持つとされているので、十分あり得る話だと思います(ちなみに水族園のイルカはバンドウイルカだそうです)。本作の中で、イルカは重要なモチーフとして登場します。太助はれいこの形見であるイルカのぬいぐるみを、決して手放そうとしません。水槽で泳ぐイルカがアップになるカットは、無垢でつぶらなイルカの瞳が実に印象的で、まるでれいこそのもののようです。れいこを忘れたように生きていた伊智子でしたが、思い出の水族館でイルカを見ることを足がかりに長い間向き合えなかった痛ましい記憶に触れ、前に進めるようになっていくのでした。夫婦の喪失感と希望、れいこと同じようなイルカのぬいぐるみを買ってもらっていた私自身の子供の頃の記憶、そして何よりもイルカの愛らしさ…様々な感情がない交ぜになった私は観ている間中涙が止まりませんでした。

調べたところ、須磨海浜水族園のイルカライブ館は、再整備のため一時閉館してしまったそうです。3年後の2024年のリニューアルオープンの暁には私も足を運んで、久々の水族館とイルカを楽しんでみたいと思っています。その時は『れいこいるか』を思い出して、またきっと泣いてしまうのでしょうね。

(ミ・ナミ)

©国映