2021.02.25
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
韓国映画と犬の関係
先週早稲田松竹で上映した『ほえる犬は噛まない』は、たくさんのお客様にご来場いただきました。舞台となったマンションにはミニチュア・ピンシャー、トイ・プードル、シーズーなどさまざまイヌが暮らしていますが、連続失踪事件に巻き込まれて散々な目に遭ってしまいます。
イヌの映画は世界各国、古今東西さまざまありますが、韓国のイヌ映画はただ愛玩される存在での出演というより、少々風変わりなことが多いように感じます。たとえば、キム・ソンホ監督の『犬どろぼう完全計画』。父が失踪し家も失い、母と弟と車中生活を送る主人公のジソは、ある日飼い犬を探す張り紙をみつけます。なんと謝礼金は500万ウォン!(現在の金額で約470万円)さらに、坪あたり500万ウォンで販売されている家の広告も目にし、犬を探せば家が買えると勘違いした彼女は、すでに見つかっていた貼り紙の犬ではなく、別のお金持ちから犬を盗む計画を立てるのでした…。
アメリカの子供向けベストセラー小説を韓国で映画化した『犬どろぼう完全計画』は、一見普通の児童映画にみえますが、実は、韓国映画界では記憶に残る作品となっています。2014年韓国での公開当時、大手配給の映画に押されて危うく上映が終了となりそうだったところを、映画ポータルサイトで「もっと上映を増やしてほしい!」といった、熱い署名運動が巻き起こったのです。公開は続いたうえ、錚々たる同時期公開作を抑えて高評価を得たのです。韓国のリサーチ会社による2015年の調査では、韓国人が飼いたいペット(韓国語では「伴侶動物」)はやはりイヌなのだそうです。韓国で『犬どろぼう完全計画』が根強く愛されたのは、こうした社会状況も反映している気がします。
『犬どろぼう完全計画』で盗まれてしまうイヌは、当コラムでも以前書いたことのあるジャック・ラッセル・テリアで、やはり映画界隈で人気の高い犬種なのですね。劇中でも高い運動能力を見せてくれています。よく、「役者の肉体」というようなことが演技論で言われることがありますが、ジャック・ラッセル・テリアの体つきは映画向きなのでしょう。原作でターゲットにされるイヌは「顔は白くて、そばかすみたいに小さな黒い点々がある」「片方の目のまわりが黒くなっていて眼帯をつけているみたい」「耳は垂れている」と描写されているので、ジャック・ラッセル・テリアとはまた違う印象ですが、何だか韓国の天然記念物でむく毛・たれ耳のサプサル犬によく似ているのかもしれないと思いました。
『犬どろぼう完全計画』は、家に住む引き換えとして物のように盗まれてしまう、何だか気の毒な存在でありながら、カメラを見つめたり、立ち上がったりなどの可愛らしい姿が活写されていて魅力的です。『ほえる犬は噛まない』のポン・ジュノ監督はインタビューで「韓国社会の犬に対する見方というのは、映画と同じくふたつの見方が混在している」と語っているように、真逆の扱われ方が映画に反映しているからこそ面白いのかもしれません。
(ミ・ナミ)
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