2019.03.28
【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類
その33 ジョディ・フォスターと『白い家の少女』
子役時代のジョディ・フォスターと言えば、14歳にして娼婦を演じたセンセーショナルな『タクシードライバー』(76)が有名ですが、個人的には同年に公開された主演作『白い家の少女』が特に思い入れの強い作品です。
フォスターが演じるのはアメリカ北部の田舎町の小さな家に越してきた少女リン。詩人の父親と二人暮らしのはずなのですが、家の契約時以来父の姿が見えないことに家主のハレット夫人は不審を抱きます。彼女の家を訪れリンに問いかけても、仕事に没頭していて面会謝絶だといったり、出張中だと言い訳してはぐらかしてばかり。業を煮やして強引に詰め寄ったハレット夫人を、リンはなりゆきで殺めてしまうのですが…。
邪悪な子どもが殺人を犯す映画は『悪い種子』(56)や『ザ・チャイルド』(76)などが有名です。これらはジャンルとしてはホラー映画に分類されます。『白い家の少女』も公開時は完全にホラー映画として売り出されていましたが、本作で描かれるのは大人を殺めてまで一人で生きざるを得ない少女の圧倒的な孤独です。実はリンの父は自殺しており、離婚した性悪な母親がやってきたら毒を盛って殺すよう遺言を残していました。遺言通り母を殺し、死体を隠したリンは秘密を守るために外界を遮断して一人で生きてきたのです。
当時14歳だったジョディ・フォスターの、まだあどけなさを残しながらも張りつめた相貌と天才的演技力が、このやや現実離れした設定にリアリティを与えています。唯一秘密を共有できた少年マリオが大病を患い死の淵に立った時に初めて見せる涙と弱音が切なく観る者に迫りますが、映画は最後まで彼女に救いを与えてはくれません。リンは秘密をかぎつけ彼女に魔の手にかけようとした変態青年フランクを撃退するため、母親を殺したときと同じように毒を盛らざるを得なくなります。もだえ苦しむフランクを哀しみを湛えた無表情で見つめる彼女は、孤独に生きる自分の運命を改めて静かに受け入れているように見えます(フォスターの表情を延々アップで映し続けるラストカットが素晴らしい)。
未だに彼女は少女のまま、気丈にひとりあの家で暮らしているかもしれない。そんな想いについ駆られてしまう、もの悲しくも美しい作品です。
(甘利類)