2019.03.14

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

シマウマ映画『レーシング・ストライプス』

当館が休館中の大掃除のときのこと。倉庫に積まれたあらゆるジャンルの映画パンフレットの山の中、我々スタッフは毎日埃まみれで整理にいそしんでいました。そんな時、何気なく手に取った一冊に、私は目を奪われました。ポニーやヤギといった家畜たちの真ん中に、どう考えてもアフリカにしかいないはずのシマウマが一頭。作品名は『レーシング・ストライプス』(2005)。おそらく世界初にして唯一のシマウマ映画との出会いでした。

農場主のノーランは、ある豪雨の夜、サーカス団に置き去りにされた赤ちゃんシマウマを拾います。ストライプスと名付けられ、ノーランとその娘チャニングの愛情を受けてすくすくと育った彼は、いつしか競走馬としてレースに出ることに憧れます。シマウマであるストライプスが、サラブレッドたちと勝負するなんて夢のまた夢。しかし、ストライプスの親代わりであるシェトランドポニーのタッカーに支えられ、地元のレースに出るため特訓を始めるのでした。

以前、競馬好きの人から“競馬は血統が悪くても一番になれる”という言葉を教えてもらったことがあります。シマウマが名馬たちに挑む『レーシング・ストライプス』は、そんな哲学を地で行く一本でした。落ちこぼれ馬の下剋上に加え、農場の動物たちとの熱い友情といった感動要素が、シンプルに楽しませてくれます。「ポニーの吹き替え声優、イイ声だなあ…」と思ったら何とダスティ・ホフマンで、声優陣の豪華さにも驚きです。

何よりも、シマウマを調教したという製作陣の力量に感動します。一般的な馬よりもアドレナリン分泌が多いシマウマは気性が荒く、その一方、ふとしたことでパニックに陥りやすいため、飼い慣らすのは非常に困難と言われています。しかし、チャニングと触れあうストライプスの優しい目つきとおだやかな仕草は、気難しい性質をみじんも感じさせません。さすがは動物コメディの金字塔『ベイブ』(1995)の製作陣です。

ちなみに私の偏愛シーンは、優雅な障害馬のホワイトホース、サンディとの淡いロマンス。湖のほとりで白馬とシマウマがじゃれているだけで、もう言葉にならないくらい最高です。パンフレットのチープなジャケット写真から、軽い気持ちで観た本作でしたが、ラストのレースシーンでは不覚にも涙腺が緩んでしまいました。

(ミ・ナミ)