2020.08.06
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
この7月から、コンビニや多くの店舗でレジ袋が有料になると知ったとき、私が思い出したのは小学生の頃に好きだった児童小説でした。 舟崎克彦さんの「ぽっぺん先生」シリーズの一つ、「ぽっぺん先生の動物事典」は、生き物と自由に会話が出来る架空の人物・ぽっぺん先生と動物たちの交遊録を一冊の本にしています。その一篇に、先生とアオウミガメのエピソードがあります。ぽっぺん先生が船に乗っていたとき、食事中のアオウミガメに出会うのですが、よく観察するとそれは海草に似たビニール袋。カメへ注意しながら「学会の報告では、海へ流出するビニール製品を、カメが海草とまちがえて食べ、それがのどにはりついてしまうため息が詰まって死んでしまう」と言うぽっぺん先生の言葉に、衝撃をおぼえたものでした。今回のレジ袋有料化によって、自然に影響のあるビニールのごみが少しでも減り野生動物たちの事故が無くなるのを願うばかりです。
日本のぽっぺん先生シリーズと引き合いに出されることが多いのは、「ドリトル先生」シリーズではないでしょうか。20世紀前半にアメリカで活躍したイギリス出身の小説家ヒュー・ロフティングが著した、全12巻の児童小説です。ロフティングが第一次世界大戦に従軍した際、動けなくなった軍用馬の射殺処分に遭遇して心を痛めたことをきっかけに、動物の言葉を解する獣医師の物語を書くことを決めたそうです。このシリーズの2作目「ドリトル先生航海記」のストーリーをベースに映画化したのが、『ドクター・ドリトル』(2020)。愛妻の死をきっかけに世間に背を向け、動物たちとひっそり暮らしていた獣医のドリトルが、女王の重病を治す特効薬を目指し動物たちと幻の島へ冒険に出かける、王道中の王道児童映画です。
様々な動物たちが出ずっぱりの101分は、生き物偏愛家には眼福の時間なのは当然なのですが、生き物以上に私が注目したのは、主人公のドリトルです。彼が動物と会話が出来ることはたしかに特殊な能力ですが、他はごく普通の人間で、むしろ映画の中の彼は社会的にとても生きづらそうにしています。そして、愛する人を失った心の傷からなかなか立ち直れていません。そんなドリトルに発破をかけたのは、一緒にいるオウム、ゴリラ、シロクマたち。ドリトルは動物と互いの可能性を分かち合い、動物とかかわることで自己や他者を理解し成長していきます。このように、人間が生き物を育てているのではなく、生き物に育ててもらっていることがちゃんと描かれているのです。もちろん私は動物と話すことは出来ませんが、ドリトルを見ていると身につまされるところがあまりに多く、最後まで泣かされっぱなしの映画でした。
さて、今回『ドクター・ドリトル』についてのコラムを書くため、「ぽっぺん先生の動物事典」を何十年ぶりかに手に取ってみたのですが、扉の一文を読んだとき、思わず眼がしらに熱いものがこみ上げてしまいました。こんなことが書いてあったなんて。小学生の時のバイブルだったのに、全く覚えていないものですね。
この世にもし動物たちがいなかったなら、人間は自分自身を知ることができなかっただろう。
西洋のことわざ
(ミ・ナミ)