2025.04.24
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:穀雨(こくう)、初候:葭始生(あしはじめてしょうず)
晴れた日には半袖姿もちらほらと見るようになりましたね。もう十日ほど過ぎれば立夏を迎えるこの時季は「春雨が降って百穀(ひゃっこく)を潤す」を意味する「穀雨(こくう)」と言います。さまざまな穀物を育
ててくれる恵みの雨を降らせるこの時季に、初候「葭始生(あしはじめてしょうず)」、次候「霜止出苗(しもやんでなえいずる)」、末候「牡丹華(ぼたんはなさく)」と植物たちはすくすく育ち、さわやかで過ごしやすい初夏を迎えます。
この時期に水辺に育つ若芽を出す「葭」は「葦」とも「蘆」とも書き、「あし」とも「よし」とも読みます。とくにその若芽である「葦牙(あしかび)」の起源はとても古く、泥の中から突き出てくる葦牙はまだ国土が固まっていない泥のような状態のときに、この世に誕生した人類の姿に重ねられ『古事記』の創世神話にも登場します。ちょうど稲を植える時期に萌え出た葭が稲とともに成長して、稲刈りが終わった頃に小舟を出して刈り取って舟に積んでいる姿は晩秋の風物詩だったそうです。刈り取った葭は船(葦舟)・楽器(葦笛)・紙(ヨシパルプ)・生薬(蘆根ろこん)・肥料・食用など、様々なものに使われていたそうで、日本人の生活との密接さを感じます。
葭が出てくる映画というと、溝口健二監督の作品は映画の重要なモチーフである水辺の風景とともに葭が生えている姿は欠かせません。また来週行う特集内では上映されませんが、青山真治監督の『EUREKA』の行方不明になってしまった女性の靴が川を流れる印象的なショットでは、その靴とともに写されている葭の姿を思い出します。この映画では葭だけでなく、セイダカアワダチソウというキク科の多年草を刈るシーンがあり、その天に向かって真っすぐ生えている姿は葦の生える姿とも似ていて、二つのシーンを結びつけるイメージとしてセットで思い出します。
こうした季節の植物は、青山真治監督が影響を受けたという作家・中上健次の小説でもモチーフとして描かれております。有名なのは中上作品が語られる重要な舞台である「路地」の世界に咲く「夏ふよう」です。正式な植物名としては存在しない架空の花ですが、芙蓉の大きな白やピンクの花が、路地が消滅したあとにも路地の不在/存在のあいだに咲く花として象徴的に描かれています。土曜日から上映がはじまる『路地へ 中上健次が残したフィルム』では青山真治監督が中上健次の故郷であり作品世界の原風景である紀州・新宮へ向かう旅を描いておりますので、ぜひ一度ご覧になってみてください。
(上田)