2024.09.26
【スタッフコラム】馬場・オブ・ザ・デッド by牛
前回のコラムに引き続き、妖怪の存在が気になっている牛です。この夏、『化け猫あんずちゃん』という妖怪(?)映画を観ました。タイトルの通り、化け猫の“あんずちゃん”が登場し、そのほか妖怪のお友達たちが出てきたりと、私の中でこの夏No.1を誇る素晴らしい作品でした。しかし、あんずちゃんは化け猫といってもまるっともちっとした見た目をしていらっしゃるので恐怖という印象とは無縁であります。本来の化け猫ってどんな感じだっけ?と思い出したのが幼い頃に本で見た化け猫の挿絵。暗闇で光る鋭い瞳に、すべてを見透かしたような表情。猫って、カワイイだけでなくどこか不吉でホラー的な要素を感じます。今回は、数ある怪猫映画の中でも私が忘れられない作品『怪談昇り竜』をご紹介します。
『怪談昇り竜』(1970)は、鬼才・石井輝男監督の作品。「昇り竜」というタイトルを聞いて、猫ではなく竜?となると思いますが、それは主演の梶芽衣子さんが背中一面に竜の和彫りを入れた女親分を演じている…というバリバリの任侠ものだからです。しかし、怪談といっているだけあり、ホラー要素も健在。任侠×怪談という異色の作品なのです。物語はというと、ヤクザ同士の抗争の中、梶芽衣子さん演じる明美は敵対する組長の妹・藍子の目を誤って斬ってしまいます。その時現れた怪しげな黒猫を見て以来、明美は不吉な出来事に見舞われる…というお話です。
この作品、忘れられないポイントはとにかく見どころが多すぎること。まず、背中の竜の入れ墨を盛大に披露する若干つっこみどころ満載なオープニングクレジットにはじまり、テンポよく登場する怪しい黒猫。その後も黒猫の呪いにより次々と怪死していく組員たち…。組員たちの亡骸の横にはいつもあの黒猫が…。そんな黒猫の気味の悪さにぞっとしますが、その気味悪さを上回るのはちょい役で登場する土方巽の存在です。暗黒舞踏家として活躍していた彼の存在感はこの作品の中で特に異彩を放ち、正直黒猫の存在が可愛く思えてしまうくらいのインパクトを与えています。そして、なんといっても最大の見どころである盲目の剣士となった藍子との対決。禍々しい模様の空の下、二人の剣士による一騎打ちは緊張感だけでなく異様な殺気が漂います。このシーン、調べてみるとQ・タランティーノ監督『キル・ビル』の元ネタにもなっているとか…。『キル・ビル』に登場するオーレン石井の石井って、輝男監督の石井だったのか! と今更気が付いたのでした。
そして、さらに調べたところによると、11月よりシネマヴェーラ渋谷で石井輝男監督の生誕100年を記念した特集上映があるではないですか! 『怪談昇り竜』も上映されるみたいなので、気になった方はぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
(牛)