2024.08.08

【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん

先月、東京都現代美術館で「ホー・ツーニェン エージェントのA」という展覧会を見てまいりました。ホー・ツーニェンさんはシンガポール出身のアーティストで、シンガポールの起源についてや、東南アジアの歴史的な背景を持つ映像作品が印象的です。日本は歴史的に見ても東南アジアと密接にかかわっており、第二次世界大戦中、シンガポールが日本に占領されたことも映像作品に反映されています。また、山口情報芸術センター[YCAM]とのコラボレーション作品《ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声》では、大東亜共栄圏建設について考察した京都学派の哲学者たちの対話をアニメーションで表現するという、なかなか思いつくことのできない空間を映像の中で作り上げています。東南アジアに興味を持つわたしにはどの作品も刺激的でしたが、へんてこコラムとして、いちばん印象に残った作品を紹介したいと思います!

圧倒的へんてこ世界観であったのが、《一頭あるいは数頭のトラ》という映像作品です。2画面構成になっており、画面と画面の間に人が座って見る作りになっていました。

モチーフとなっている虎は、かつてシンガポールにたくさん生息していました。やがて人類が住み始めると虎と人間は共存するようになり、同時に象徴的な関係も生まれていきました。シンガポールのあるマレー半島を含む東南アジアに存在するマレーの世界観では、虎には先祖の霊が憑依すると考えられ、非常に身近な存在だったようです。ですが、イギリスに占領されると、虎が駆除の対象になったためやがて絶滅しました。駆除されるきっかけとなった出来事がハインリッヒ・ロイテマン作の『シンガポールでの妨害された測量』という木版画に描写されています。絵には、道路調査をしていたイギリス人の測量士、ジョージ・D・コールマンの使っていた三角測量に使う経緯儀に、虎が飛びかかって破壊した様子が描かれているのです。

この絵画からいくつもの物語を紡ぎだすことができると考えたホーさんは、この瞬間のコールマンと虎と経緯儀を3Dアニメーションで描き、なんと、宇宙空間に漂わせ、ミュージカルのように表現しています! すごい世界観です。また、この3Dで表現されたコールマンが、昔のコンピューターゲームで見たようなキャラクターデザインであることも作品の特徴だと思います。

他の作品にも通ずるのですが、ホーさんのアニメーションは描き込むことよりも線と面でとらえたシンプルさが特徴的です。ホーさんはアニメーションを構成する複雑なレイヤーが分離する瞬間に関心があるみたいで、「歴史もいくつかのイメージがレイヤーとして重なっている。歴史を見るうえでも、階層のイメージを分解して理解するというのはアニメーションと同じ」と話しています。東南アジアの持つ多様な歴史的背景を重なり合うレイヤーとしてとらえているからこそ、複雑に感じられそうなアニメーション表現も、分かりやすい形にしているのではないかと思います。

今回の展示を見て、ホーさんの作品背景や表現方法にとても感銘を受けました。日本と東南アジアの関係性にもしご興味がある方がいましたら、今後の展示の際には是非、足を運んでみてほしいなと思います!

(すみちゃん)