2024.03.21
【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん
映画の中で印象深い服の組み合わせを目にすると、気になってしまうところがあります。この人は一体どうしてこの服とこの服を組み合わせたのだろう? と映画の終わりまで頭の片隅に残ります。想像力を働かせてくれるそんなコーディネートこそ、へんてこ好きとしてはグッとくるものがあるのです。
アンゲラ・シャーネレク監督の『儚き夢』では主人公の女性の服装がとても印象的でした。上は朱色に細い白いボーダー柄のポロシャツで、下は白と黒の太めのボーダーの丈の短いスカート、素足で薄紫色のパンプスを履いています。ボーダーとボーダーの組み合わせは、文章だけだといかにも上級者が挑戦しそうなコーディネートに感じるのですが、色彩やボーダーの幅も違う上下の服は、なんともちぐはぐな印象があります。それに、彼女はなんと30年後も同じ服を着ているのです! 時間が経過していることは映画を観ていてわかるのですが、メイクでを重ねていることを表現するわけではないので、まさか30年が経っているとは人物だけを見ていると分かりません。
この映画ではこの女性以外にも様々な人が登場します。食べながら泣く人、スカートからトイレットペーパーがついたまま歩く人、車いすに乗っているけどプールに飛び込む人。みんな、自分の意識よりも先に身体が動いており、食べること、歩くこと、飛び込むことを他の何よりも優先しています。抵抗できない自分自身の意識と、老いという時間への抗いが同居しているところがこの映画のおもしろいところです。ボーダー×ボーダーのちぐはぐなコーディネートも、服をどう着こなそうかという意識よりも前に、何かを身にまとうという人間の本能的な部分を大切にしている女性を描いているような気がします。
また服装がほとんど変わらないへんてこ映画といえば、ジャック・リヴェット監督の『OUT1』です! この映画では秘密結社が存在し、その結社の秘密を暴こうとする人物がパリをこれでもかと歩き回ります。13時間もある作品なので、登場人物もいっぱい登場します。ですが、ひとりひとりの衣装が個性的で、なおかつほとんど着替えないので、意外と混乱しません。特に、リリという女性が率いる劇団員たちの練習着がポップな色使いでとても愛らしく、音楽に合わせたウォーミングアップをひたすら見せられるのですが、それも何だかおもちゃの人形たちが動いているようで見続けられます。他にも、上も下もタイツもストールも全身紫色の登場人物が現れた時は衝撃的でした! 衝撃的ではあるものの、違和感というよりは、この世界にならこういう人はいそうだな! と思えるような説得力さえあるのです。観るものをこの謎に包まれた世界に引き込むには、人の目を引く服装がピッタリなのかもしれませんね!
(すみちゃん)