2016.11.10

【スタッフコラム】わが職場の日常 by KANI-ZO

今回は、私が映写の見習いだった頃の記憶に残っている事をご紹介したいと思います。当館では、担当者一名が上映するプログラムの作品を全編通しての試写を行います。その際に、細かな上映設定を決め、上映本番での映写設備の運用方法の確認等を行います。私が初めて先輩にその業務のやり方を教えてもらった作品は『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』でした。映画好きなら誰でも知っているゴダールの作品です。当時、当館は35mmフィルム映写機のみの運用でしたのでもちろん素材はフィルムです。初めての私は、ゴダールの代表作品を扱わなければならないことに少々ビビっていたような気がします。また、今まで触れた事のない、映写機のフォーカス調節リングやアンプの音声レベル設定スイッチなど男心をくすぐるスイッチ類に触れ、動かす事が楽しかったように思い出します。

初めてのプログラムはどちらも音声がモノラル(センタースピーカーのみ音が出る)でしたので、客席の前後ろでの音声の聞こえ方の違いを体感し、音量を調整してゆくのに苦労したことを覚えています。そして、翌週の作品も先輩について試写を行いました。作品は『ゴダール・ソシアリスム』。この作品はゴダールが初めてデジタルカメラを用いて話題となった作品。当館に送られてきたフィルム缶の中に製作者からの推奨音声レベルの紙が入っていました。先輩と共に試しに、いつものように音声レベルを合わせた後に、推奨されていた音声レベルを上乗せしてオープニングシーンを再度見てみました。世界が変わりました。海の波を映しているだけのオープニングが劇的に面白く見えたのです。私は、巨匠・ゴダールに映写での音声レベル調整の重要性を教えてもらった気がして、今でも時折この記憶を思い出すのです。

<あとがき>
前回コラムの迷い犬は、無事飼い主の元に帰ったようです。先日、早稲田松竹の前を飼い主と共にお散歩している2匹の元気な姿が見られました。

(KANI-ZO)