2017.05.04
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:立夏(りっか)、初候:蛙始鳴(かわずはじめてなく)
春らしい季節も通り過ぎ、青々と緑が茂ってきましたね。春先に映画館の裏に生えてきたクローバーも若い緑色から深緑色へと変わり、可愛らしくそろっていた葉も、大きく開いて揺れています。立夏をすぎれば暦の上では夏!わたしは近年、初夏がどの季節よりも好きになっています。実際に五月は最も美しい季節と呼ぶのにふさわしく、夏の本番に比べて日差しが強くないので、一番暗いところから明るい所までの光のグラデーションが見事になだらかに出て、日陰と日向のコントラストが綺麗なんです。爽やかで涼しい日陰に入って涼んでいると、そろそろ蛙の声なんかも聞こえてくる頃ですね。
蛙は俳句でよく詠まれます。有名なのは松尾芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」ですが、僕がなんだか思い入れがあるのは小林一茶の「痩せ蛙負けるな一茶ここにあり」です。俳句は花鳥諷詠(自然をうたい)、客観写生(見たままを詠む)が基本だと言われます(高浜虚子さんが言いました)が、作者が句に出て来ちゃってるのが面白い。実はこれ、スランプで苦しんでいた一茶が蛙に感情移入したとか、生まれた自分の子供に詠んだ句だとか諸説あるのですが、百姓的な観点で句を作り続けた「一茶」という俳人の生活、人生、キャラクターが句に反映されているから想像力が膨らんで読める句なんだと思います。「痩せ蛙」と「一茶」のマリアージュとでも言いましょうか。
小林信彦という作家が、中途半端に日本文化に詳しいアメリカ人研究者のふりをしてW・C・フラナガンという名義で書いた本「ちはやふる 奥の細道」でこの句を紹介している箇所があります。この本では松尾芭蕉が実は隠密だったとか、あることないことをしかつめらしく書いてあるのですが、時折出鱈目な英訳が入っていて「痩せ蛙負けるな一茶ここにあり」は「Hey! hungry frog! Never give up! Issa is here!」と訳されていました。あああ、なんか違う。すごく違うけど、なんかこれでもいいような…とても不思議な気持ちになりました。でもたぶんこれ以上訳せませんよね、この句は。強く励ます姿勢、嫌いじゃありません。
(上田)