2017.07.13
【スタッフコラム】二十四節気・七十二候とボク by上田
二十四節気:小暑(しょうしょ)、次候:蓮始開(はすはじめてひらく)
7月。もうそろそろ梅雨明けのはずですが、今年の東京は梅雨らしくない天気が続きますね。このまままとまった雨が降らないままに梅雨が明けてしまうと少し寂しい気もします。
小暑に入ると、梅雨が明けて蝉が鳴き始めると言われていますが、もう声を聞いた方もいらっしゃいますでしょうか。この時期に、蓮は水面に浮く浮き葉から、さらに立ち葉を伸ばし、蕾をつけます。大きな蕾は柔らかく透き通るような明るい色が幻想的で、ふと目を奪われます。正岡子規の「蓮開く音聞く人か朝まだき」(※朝まだき…夜がまだ明けないくらいの早朝)という句があるように、古くから花が開くときに「ポンっ」という音が聞こえるとか、聞こえないとかという議論がされていますが、実際に聞いたことのある人はほとんどいないようです。しかし上野の不忍池などに行くと、この時期には開花の瞬間をカメラにおさめようとする人も多く見られるようで、その姿は子規の詠んだ句の風景と少し似ているかもしれませんね。
蓮というと仏教の花というイメージが強いですが、実は古代エジプトの壁画にも、その仲間である睡蓮の花が描かれており、蓮が世界中で神秘的な植物として扱われてきたという資料が残っています。唐草模様のようにデザインがなされたロータス(蓮・睡蓮の総称)文様と呼ばれるものもあって、メソポタミアやギリシャ、イランなどでも使われていました。仏教では蓮華と呼ばれ、極楽浄土に咲く花とされていました。そこには蓮の生態に関わる理由がいくつもあるようで、例えば泥水の上でも汚れなく美しい花を咲かせることから、どんな環境でも清らかに育つ神聖さを想起したところは成る程と思わされます。
そういえば、黒澤明監督のデビュー作『姿三四郎』でも、技を覚えて力任せに暴れていた三四郎が、師匠に怒られて泥池にはまったまま夜を明かしたとき、目の前で開く蓮の花に魅せられて開眼するシーンがありました。最近見直したときに、そのあとで対戦相手の娘・小夜に恋をしてしまい、父のために祈る彼女の美しさこそが三四郎の一番の強敵になるというストーリーの流れに改めて感心させられました。強さとは何かを問うときに、美しさを手引きにしているところが、この映画を素晴らしいものにしているのだと思います。武道ヒーローアクション映画の原型として、最近でも『イップ・マン』シリーズなどで模倣されるほど完成度の高い傑作です。
(上田)