2017.08.31
【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類
その17 ジャナス・ブライスと『溶解人間』『悪魔の沼』『サランドラ』
謎の怪光線を帯びて帰還した宇宙飛行士が何故かドロドロの怪物になって人々を襲う『溶解人間』(77)は、ド田舎の高校生だった私のやさぐれ切った心の琴線に触れる一本だった。溶解人間に襲われてチョンパした釣り人の生首(ハリボテ丸出し)がぷかぷか川を流れ、最終的に滝から落ちて岩に当たって砕けるまでをダラダラ描写するといった味のある迷シーンの連続から生まれる独特のグルーヴは、溶解人間の不条理な運命と相まってボンクラ高校生のハートを締め付けるチープな悲壮感を醸し出していた。
この愛すべきC級SFホラーで印象深いシーンの一つに、帰宅した夫婦が溶解人間に襲われる件がある。亭主(演じるのはなぜか故ジョナサン・デミ)が取り立てて意味もなく溶解人間に惨殺される一方、妻は包丁で応戦して溶解人間を撃退するが、ショックで半狂乱になってしまう。その描写が異常に長く、2分間近く叫び続けてのたうつのがダラダラ続くという衝撃的なまでにマヌケな場面なのだが、あくまでも真剣に芝居をし続ける小柄な女優の健気さは痛いほど伝わってくるから妙に感動させられてしまう。
彼女の名はジャナス・ブライス。その名が日本で特別注目されることはあまりないが、実は本作以外にも70年代カルト作品群で印象的な役を演じている。例えばトビー・フーパー監督『悪魔の沼』(76)。モーテルの主人が大鎌で次々と宿泊客をぶった切り、巨大ワニのエサにするという身も蓋もない一本だが、彼女が演じた露出度の高い衣装でキャーキャーと大鎌から逃げ回る、過剰に色っぽくて能天気な若い娘のヴィジュアルは、この素晴らしく混沌とした作品を象徴するようで大好きだ。
その翌年出演したウェス・クレイヴン監督『サランドラ』(77)での彼女の役は、ワイルド家族の中で唯一真人間の心を持っているがゆえに迫害されている末娘。彼女が拉致された主人公一家の赤ん坊をワイルド親族から守り抜き、あまつさえ彼らに復讐する展開はこの殺伐とした作品唯一の心洗われるポイントである。原始人みたいな格好に爆発ヘアーというコントみたいな風貌も素敵である。
現在は女優業を引退しているようだが、近況はフェイスブックで知ることができる。マイナーなホラー女優の域を出なかった彼女だが、かつての共演者たちと楽しそうに写ったホラーイベントでの写真などを見るにつけ、そのキャリアに誇りを持っているのが伝わってくるから嬉しい。
(甘利類)