2023.05.18
【スタッフコラム】へんてこコレクション byすみちゃん
ここ最近、ニュースなどでChatGPTや画像生成AIなどの技術の進歩についての話をよく耳にするようになりました。映画にはどんな影響があるだろうか? と考えている人も多く、脚本や演出方法の著作権を守らなければならないとか、今後も問題点はたくさん出てくるのではないかと思います。懸念ももちろんありますが、今までにもテクノロジーとの付き合い方を考え、ユニークな作品を作っている作家もいます。今年出会ったへんてこで不思議な感覚になる映像作品に触れながら、ご紹介したいと思います!
恵比寿映像祭2023で特集上映されていたペギー・アーウィッシュ監督の『Warm Objects』(2007年)は、日常の風景がサーモグラフィーカメラによって映し出されることで、まるでエイリアンになったみたいに、わたしたちの日常世界を見ることができる作品です。人間の肌は真っ赤なのに、メガネや服は緑や青で表示されるので、非常にド派手な色彩感覚でテンションが上がります。サーモグラフィーカメラによる映像を、このコロナ禍での検温システムで見かけた人もいるのではないでしょうか? 熱い、冷たいは視覚では判断できませんが、この作品では一目瞭然です。
もう1つ、イメージフォーラムにて2日間限定で上映されていた、スウェーデンにあるフィルム・フォーラム(実験映画、ビデオ・アートを専門とする組織)の特集上映で観たマルティーナ・ホーグランド・イワノフ監督の『Interbeing』(2018年)も、赤外線についての作品です。こちらはカラーではなくモノクロで、赤外線を反射する強さによって白と黒の濃淡が変わります。『Warm Objects』よりは、人が人をマッサージするなど触れ合う描写が多く、その触れた部分が真っ白からじんわり元のグレーに変わっていくような瞬間が見られるので、人間の持つ体温の痕跡が視覚化され、非常に神秘的な気持ちになります。
どちらの作品もたまたまですが赤外線という、人間が見ることのできない光や熱を取り扱っています。わたしたち人間は技術の進歩によって知覚が刺激され、新しいものを見たい、聞きたい! と好奇心を持って発明していくのだなと改めて感じます。
テクノロジーと作品が密接に関わっている作家と言えば、3月に亡くなられた坂本龍一さんが思い浮かびます。ピアノなどの楽器は産業革命以降に飛躍的に発展したものだと、坂本さんはドキュメンタリー映画『Ryuichi Sakamoto: CODA』で語っています。また、発展ではあるかもしれないけれど、ピアノは長い時間をかけて木を鋳型にはめて曲げていくという、自然に逆らったものなのだとも述べています。人間の好奇心は、時折自然に反していきます。不自然さへの疑問視と、自然への敬意を坂本さんは持ち合わせ、向き合い続けて作品を創り続けていたのだなぁと、ドキュメンタリーを見て思いました。
何が発展なのか分からなくなってしまうのが技術の進歩ですが、好奇心だけで推し進めるのではなく、常に進歩により失われているものもあることに目を向けながら、付き合っていくことが大切なことなのだろうと思います。今後はもしかしたらAIの映画監督も生まれるかもしれません。その時に失われるもの、得るものについて、まだまだ考えていきたいと思います。
(すみちゃん)