2023.04.13

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

満開の桜ももう若葉となり、生き物が躍動する良い季節になりました。ところで、私は右足の骨折と靱帯損傷につき、療養の真っ最中です。本来ならば、27年目の冬眠を無事に越したカメをベランダへ出してあげるタイミングなのですが、今年は未だ暗い廊下の水槽の中。これを書いている今も、なぜ外に出してくれないのかと大暴れする音が聞こえます。まったく生き物たちというのは、季節に折り目正しいです。読者の皆さん、どうか骨折はしないでくださいね。

とにかく気が滅入るだけなので、こんなときは動物の良い映画が一番だと思い探していたところ、配信でこんな一本を見つけました。1977年公開のアメリカ・イタリア合作映画、マイケル・アンダーソン監督の『オルカ』です。

カナダのニューファンドランドの漁師ノーランと海洋学者のレイチェルは、水族館へ売るオスのオルカの生け捕りに向かいますが、誤ってメスに麻酔銃を撃ってしまいます。身ごもっていたメスはショックで赤ちゃんを産み落とし、二匹はそのまま力尽きてしまいます。一部始終を見ていたオスのオルカは、悲憤にくれながらも妻子への復讐を果たすべく、次々と人間を襲っていくのでした。

私は子供の頃に手塚治虫の「ブラックジャック」のエピソード「シャチの詩」を読み大号泣した記憶があり、シャチには好感を抱いていたのですが、その迫力ある体躯と強気な性質で、英語圏では「killer whale」などとも呼ばれています。そして、映画のタイトルでもある「オルカ」の英語名は、学名「Orcinus orca(オルキヌス・オルカ)」から来ています。ラテン語である「オルキヌス」は「冥界に属する・死の領域」、「オルカ」は「魔物」という意味で、やはりシャチは恐怖の悪魔というイメージが強いようです。

1975年に世界で大ヒットしたパニック映画『ジョーズ』の影響で製作されたという『オルカ』ですが、シャチが凶暴というよりも家族を愛するがゆえに復讐心を持つという設定でストーリー展開をしているところが、生き物偏愛家としてはとても好ましいです。特に冒頭、オスとメスのオルカの愛の交歓を思わせるシーンの美しさは格別で、本作がシャチに敬意を持って撮ったことが存分に伝わってきます。

そうした誠実さは、キャスティングやスタッフにも表れています。漁師ノーランがリチャード・ハリス、海洋学者レイチェルがシャーロット・ランプリングと最高の俳優陣、音楽がエンニオ・モリコーネ、監修で海洋監督もつけるなどかなりしっかり作られています。また時代を反映してなのか、イタリアの伝統的ジャンルであるジャッロ的なホラーの香りも漂わせたルックも見ごたえがあります。アニマル・パニック映画というとスカッとするB級ムービーの印象がありますが、『オルカ』はそれとはまた異なった面白さです。アート映画の質感を持ちつつ、生き物の心に共感する真摯な動物映画と言えるのかもしれません。

怒り狂ったオルカが漁村の村人と研究者たちを次々に襲っていくのですが、その中に骨折して松葉杖をついた女性がいて、復讐のオスオルカによって無残な最期を迎えていく姿に妙なシンクロを感じてしまい、右足がムズムズするような、オルカと共演を果たしたような、何とも不思議な気持ちになりました。

イキのいい動物映画だとチョイスしたらとても真面目だった『オルカ』。結局、映画はあらすじだけでは分からない、観てこそだと感じました。そして、こんな迫力のある作品はやはり映画館で観たい。早く足を治して、映画館三昧に戻りたいと思う私でした。

(ミ・ナミ)