2023.03.30
【スタッフコラム】わが職場の日常 by KANI-ZO
「春のエール」
毎年恒例の、早稲田大学映像制作実習とのコラボ上映が3月18日~21日に開催されました。この上映では、早稲田大学の学生たちが一年間の授業の中で製作した作品と、当館でセレクトした一般商業作品を合わせて観ることができます。
今年は私が映写担当をしました。学生作品の上映素材が早稲田松竹に納品される日が近づくと、当館映写スタッフはソワソワしだします。監督たちは、疲れた表情で息を切らしながら、締め切りのギリギリに素材を持ってやってきます。
私は、その出来立てほやほやの素材を手に取ると、彼らと同じように学生時代に経験した映画制作の、大変だったけれど大切な記憶が鮮明によみがえります。映画作りは精神力と体力勝負です。夏休みの課題で書いた「200枚シナリオ」では、締め切りまで常に頭の中で台本のことを考え続けろと教えられました。助監督で参加した合宿撮影は、2か月間があっという間に感じるほど濃密な時間と人との出会いがありました。編集・整音作業は、無限に広がる組み合わせとの睨めっこが続き、いつの間にか顔を出した朝日が目に染みる事も懐かしく感じます。そんな中で支えとなるのは“映画を撮りたい”という衝動でした。
学生たちがこの授業で作り上げた作品も、それぞれの思いや沢山の経験が詰まっているのです。そして、この上映で一般のお客様に観てもらうことで初めて映画になり、作り手の思いと頑張りは昇華されていくのだろうと、映写室から思いを馳せていました。
今年は初めての試みとして、中川龍太郎監督(『やがて海へと届く』)と塩田明彦監督(『麻希のいる世界』)をゲストにお迎えし、学生監督とのクロストークをして頂きました。舞台裏で見せる初々しい姿と異なり、同じ映画監督として懸命に話す学生監督の姿は心に来るものがあります。私が特に印象的だったのは「見えている未来と、見えない未来なら、見えない未来の方が、自分の想像を超えた未来が待っているかもしれない」という中川監督の言葉でした。学生監督に向けて真摯に、やさしく背中を押してくれるその言葉は、私の心にも響いてしまいました。
この先、実習に参加した学生たちが映画の道に進むのかは分かりませんが、この経験は大きな糧になることでしょう。私自身は、映画制作に進まず、先が全く見えない中、早稲田松竹で働き始めました。そして、今でも映画と繋がり続けることができています。映画制作の経験がこの仕事や人生に活かされていると思っています。
早稲田松竹でこの上映が開催される頃、例年桜も咲き始め、明るい春の訪れを感じさせてくれます。そして、エールを送りたくなるのです。
がんばれ若者! 映画に幸あれ!
(KANI-ZO)