2020.02.05

【スタッフコラム】ごくごく私的偏愛女優たち by甘利類

その40 ゴールディ・ホーンと『続・激突!/カージャック』

ゴールディ・ホーンはいくつになっても変わらない底抜けな笑顔でアメリカの楽天性を体現した最高のコメディエンヌ。初期作に限っても面白い出演作はたくさんあるのですが、どれか一本といわれたらスピルバーグ監督の劇場映画デビュー作『続・激突!/カージャック』(74)を挙げたいと思います。

物語は軽犯罪の前科があるために無理やり子どもを奪われてしまったホーンが、同じくケチな窃盗で服役中の夫に面会に行くところから始まります。ホーンは里親から子どもを奪い返すために一緒に遠く離れた地域シュガーランドまで行かなければ離婚だと乗り気でない夫を脅し、どさくさに紛れて脱獄させることに成功。しかしヒッチハイクした車がノロノロ運転過ぎて巡回中のパトカーに呼び止められてしまったため、焦った二人は成り行きでカージャック。警官を人質に、大量のパトカーや野次馬をゾロゾロ引き連れた不思議な旅を繰り広げます。

大がかりなスペクタクルとユーモアの絶妙なバランスといったスピルバーグタッチはここで既に確立されていますが、特に注目したいのは主人公カップルの無邪気な言動です。州全体を巻き込んだ大事件に発展しているのに、二人は(特にホーンは)半ばピクニック気分なのです。商店街に行けば大量のクーポン券をもらい、マスコミに英雄扱いされれば得意げにインタビューに答える。ドライヴインシアターでディズニーアニメを楽しむ姿は、まるで子どものようです。二人のイノセンスにほだされるように、彼らを追う警部も人質になった巡査も、次第にカップルに共感を覚えていきます(巡査に至っては人質であることも忘れ、二人をアシストするようになる始末)。家族そっちのけでUFOを追っていた男が宇宙に行くチャンスを得る『未知との遭遇』が象徴的なように、スピルバーグ映画ではしばしば純粋無垢で子どもっぽい主人公が描かれました。それが批判の対象になることも多かった訳ですが、その感性こそがハリウッド映画に新しい時代をもたらしたことも事実です。屈託のなさを体現したゴールディ・ホーンは、そんな次の時代を象徴するスピルバーグキャラ第一号にふさわしい女優でした。

とはいえ、スピルバーグは必ずしもコドモ大人を甘やかすだけの映画にはしていません。厳しい現実の中で次第にカップルが無垢なままではいられなくなっていくだけでなく、それによって彼らに共感を抱いた警部や巡査の理想や友情までもが崩れ去っていくのです。その悲劇的な展開が痛ましく観る者に迫ってくるのも、ゴールディ・ホーンの天真爛漫な魅力との落差故なのだと思います。ゴールディ・ホーン映画としてもスピルバーグ映画としても、文句なしの傑作です。二人がこれ以降組んでいないのが残念です。

(甘利類)