2020.01.16

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

昨年から、遅まきながら人生初の一人暮らしを満喫しています。そんな中でふと家族のことを思い出す映画があります。その一つが、母親がとても好んでいた『忠臣蔵』。幼い頃は、討ち入りの決行日である12月14日に、必ず『忠臣蔵』シリーズの映画を観させられていました。当時は良さがよくわからなかったのですが、ある時、1958年版『忠臣蔵』の市川雷蔵に魅了されてしまいました。以来、この我が家独特のイベントを秘かに楽しみにしていたのでした。

『忠臣蔵』の映画について、ある程度知っていると思い込んでいた私ですが、手塚治虫原案の東映アニメ『わんわん忠臣蔵』の存在は、不覚にも全く知りませんでした。主人公の仔犬・ロックは、山の中で母犬シロと二人暮らし。シロは森の動物から慕われるたくましいリーダーでしたが、その存在を快く思わない虎のキラーと腰巾着の狐・アカミミの策略で命を落としてしまいます。悲しみの中でキラーへの復讐を誓ったロックは、山を降り都会で強く成長します。一方、キラーを含め山の動物たちは人間につかまって動物園へ送られることに。敵討ちのチャンスを得たロックは、街の犬たちとともにキラーのもとへと向かうのでした…!

ベーシックな忠臣蔵では、ラストで吉良上野介が屋敷内の炭部屋に逃げ込むのですが、『わんわん忠臣蔵』のロックとキラーは動物園に併設されたローラーコースターの上ですさまじい死闘を繰り広げ、見ごたえあるクライマックスを作り上げています。長い脚と巻いた尾、がっしりした身体つき、寝た耳だった仔犬が成長につれて立ち耳になる様子から、シロとロックは秋田犬がモデルなのでしょう。自分より体の大きい動物にも果敢に向かっていく攻撃性など、子供向けのアニメでもきちんと習性を忠実に表現しているところが好ましいです。デューク・エイセスの歌「わんわんマーチ」に合わせて和犬や洋犬が行進するアニメーションのオープニングは、可愛くてうっとりしてしまいます(続けて3回観ました)。

“忠臣蔵”の名を冠してはいるものの、本作のメインストーリーは親の仇討ちです。とはいえ、犬のロックや虎のキラーという名前のもじり方や、討ち入りを果たした犬たちが大通りを誇らしげに歩くラストシーンなど、ところどころに忠臣蔵ネタが細かく仕込まれているので、忠臣蔵マニアも意外に楽しめる映画だと思います。現在当館で上映中の『修羅』も、『忠臣蔵』シリーズの外伝的な作品です。今思うと、前衛映画にもアニメにも馴染んでしまう、懐が深く入り口の多い『忠臣蔵』シリーズが、私の映画好きを作り上げた一端になっているのかもしれません。

(ミ・ナミ)