2019.12.12
【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ
ユーリー・ノルシュテイン『アオサギとツル』
私の家の近所には大きな川があり、毎朝あることを楽しみにしています。それは川べりのサギたちに会えること。出勤途中で川をのぞき見ると、いつもコサギやダイサギが水流の吹き出し口に佇んでいるのです。吹き出す流れはかなり速いので、ちゃんと獲物をみつけ出せているなら「生き物の驚異!」と尊敬してしまうのですが、よく見ると彼らは仙人のような面持ちをしています。ひょっとすると釣果は重要ではなく、もっと風流な心でいるつもりなのかもしれません。
本国ロシアのみならず世界中で愛されているアニメーション作家ユーリー・ノルシュテイン。生き物偏愛家としてはどの短編も楽しく観ていますが、わけても“伊達男”のツルと“お嬢さん”なアオサギのラブストーリー『アオサギとツル』(1974年)が私は大好きです。アオサギに恋をしたツルは、ある日彼女に求愛しますが、すげなく振られてしまいます。怒って帰る彼を見たアオサギは、断ったことを後悔して後を追うのですが、プライドが傷ついたツルは彼女を冷たく追い返してしまいます。しかし、ツルはやっぱりアオサギを諦められず、再び彼女の元を訪れるも…と、互いに愛の告白と拒否を繰り返す、素直になれない二羽の恋愛戦争がじれったくもあり、また微笑ましくもあります。恋愛映画はイマイチ苦手な私ですが、本作は動物が主人公ということもあって爽やかな気持ちになってしまうのです。
「いわゆる動物ものにはしたくなかった」とノルシュテイン監督が語ったように、巧みに擬人化されたキャラクター造形と、「古く壊れた地主屋敷」を背景に意地を張りながら愛を育てる二羽の人間臭いストーリーが見どころです。その一方で、アニメーションで表現される鳥の羽毛は二羽の気位の高い立ち居振る舞いを引き立たせているように感じます。ロシアでツルは大変一般的な鳥類で、夏(映画の舞台は夏から秋)には多くの種類が繁殖しています。マニアとしては、劇中のツルの種類が非常に気になりましたが、残念ながら特定できませんでした…。
劇中最も心に残るのは、ほかの鳥たちがロシアから南下していく姿をアオサギとツルがみつめている場面です。そういえば近所のサギたちも、寒くなり始めた辺りから姿を見せなくなりました。季節の移り変わりを生き物たちで感じるとき、映画のそんなワンシーンを思い出したのでした。
(ミ・ナミ)