2023.01.05

【スタッフコラム】馬場・オブ・ザ・デッド by牛

第10回「特殊メイクの魔術師」

2023年、始まりましたね。年の瀬のある日、先輩スタッフから、「年明けに『狼男アメリカン』の上映があるヨ!」と国立映画アーカイブで開催される特集の情報を教えてもらいました。『狼男アメリカン』とは、ジョン・ランディス監督の1981年のホラー映画で、この作品の見どころといえば、狼男の変身シーン。あまりのクオリティの高さに、記念すべき第1回目のアカデミーメイクアップ賞を受賞しました。狼男の変身シーンを手掛けたのは、特殊メイクアーティストのリック・ベイカー。前回のコラムでも紹介したロブ・ボッティンのお師匠となった方です。今回はそんなリック・ベイカー作品についてご紹介します。

彼が特殊メイクを手掛けた作品で誰もが知っているものといえば、マイケル・ジャクソンのMV『スリラー』(83)ではないでしょうか。赤いジャケット姿のマイケルがゾンビとなって踊り狂うあのMV。子供の頃はゾンビと思えないキレッキレのダンスが印象的でしたが、改めてこのMVを観ると、ショートホラーフィルム風になっていて面白いんですよね。登場するゾンビたちも、口から黒い血を垂れ流したりする人、歩きながら腕を落としちゃう人など、個性があって楽しいです。本作では往年のホラー映画俳優であるヴィンセント・プライスがナレーションを務めたり、ヒッチコック監督の『めまい』を参考にした撮影技法が使われ、のちにその手法が大流行したりと、本格的なホラー作品(?)となっています。監督は『狼男アメリカン』でタッグを組んだジョン・ランディスです。

『ヴィデオドローム』(82)はデヴィッド・クローネンバーグ監督の作品。過激な映像を売りとする小さなテレビ局の社長マックスが、「ヴィデオドローム」という危険なビデオテープの虜になってしまい…というお話。クローネンバーグ作品は前作『スキャナーズ』でも度肝を抜くようなグロテスク特殊メイクシーンがありますが、(手掛けたのはリック・ベイカーのお師匠ディック・スミス氏)弟子も負けてはいません。ビデオテープに憑りつかれたマックスは幻覚で四次元ポケットの如くパックリと開いた自分のお腹から拳銃を取り出します。そしてその拳銃はどんどん自分の身体と一体化していく…という悪夢のようなシーンは私の中のトラウマシーンの1つです。ブラウン管からにゅ~んと飛び出てくる人間の皮膚のようなものや、テレビの中の爆発と共に飛び散る臓物など、ショッキングな映像はアンディ・ウォーホルも絶賛し、もはや芸術です。

他にも、彼が手掛けた作品を調べていると、大島渚監督『マックス、モン・アムール』(リアルすぎるチンパンジーの人形)や、ジョン・カーペンター監督『エスケープ・フロム・L.A.』(世紀末な世界観の特殊メイク)など、恐怖映画ではないですが、私が好きな作品が勢揃いしていてうれしくなりました。国立映画アーカイブでは、『アカデミー・フィルム・アーカイブ映画コレクション』という特集名で、往年の貴重な作品が上映されます。『狼男アメリカン』の上映は1/24(火)と29(日)にあり、更に恐怖映画作品のポスター展も同時開催中とホラー好きにはたまりません! (ホラー作品の特集ではないのでご注意を。)新年はウサギ年…ならぬオオカミ映画で映画初めをしたいなと思います。

(牛)