2022.11.24

【スタッフコラム】シネマと生き物たち byミ・ナミ

2022年も残り二か月。私を含め生き物偏愛家にとって大変寂しいニュースが飛び込んできました。東京・上野動物園のジャイアントパンダのシャンシャンが、中国に返ってしまうのです。2017年6月12日に生まれた5歳のシャンシャンは、当初は2020年末に返還される予定でしたが、コロナ禍の影響により時期が4回延期され、さらにその後の中国側との協議の結果、返還の時期を来年2月中旬から3月上旬とすることで合意したそうです。具体的な返還日時はまだ決定していませんが、シャンシャン返還予定のニュースを聞きつけたファンたちが動物園に殺到。朝から行列になり100分待ちになる日もあるのだそうです。

実は上野動物園には、中国南西部の高山地域に棲むジャイアントパンダと、その生息地に暮らす動物の新しい施設「パンダのもり」があり、ジャイアントパンダはもちろん、艶やかかつユニークな姿が特徴のキンケイ、ギンケイ、ベニジュケイといった鳥たち、そしてレッサーパンダが飼育されています。今日はジャイアントパンダ…ではなく、“大熊猫”(パンダ)に対して“小熊猫”と呼ばれるレッサーパンダの映画についてお話いたします。

少し前、ピクサーの長編作品『私ときどきレッサーパンダ』が、多くの映画ファンの間で話題になったことを覚えていらっしゃる方も多いかと思います。主人公である13歳の少女メイが、自分の感情をコントロールできなくなると突如としてレッサーパンダに変身してしまうというユニークさとともに、中国系カナダ人のドミー・シー監督が十代の頃の自分を投影し、伝統的な価値観を重視する家族と欧米の友人との文化の違い、思春期におけるアイデンティティの葛藤といった複雑で多様なテーマを盛り込んだ奥深いドラマです。本作の英題「TurningRed」は、怒りや恥ずかしさで興奮して顔が赤くなるという意味合いを持つそうです。さらに、レッサーパンダは英語で「Red Panda」。中国にルーツを持つドミー監督が、親しみのある生き物のレッサーパンダを重要なキャラクターとして取り入れ、かつ“Red”という言葉とその意味を使って、十代の多感さを表現したのかもしれません。

見た目の全く違うジャイアントパンダとレッサーパンダは、主食が竹や笹であることや“第六の指”と呼ばれる前足で物をつかみやすくするための手根骨を持つといった共通点から、クマやアライグマとは異なる独立した科「パンダ科」に分類されていました。しかしDNA解析などにより、ジャイアントパンダはクマ科に、そしてレッサーパンダは単独でレッサーパンダ科に分類されることになったのでした。そういえば、『私ときどきレッサーパンダ』も、メイが“オンリーワン”である本当の自分をみつけて受け止めるという展開になっています。

現在、レッサーパンダは絶滅危惧種に指定されているため、もしも絶滅してしまったらレッサーパンダ科は地球から永遠に消えてしまうのかもしれません。何だか書いているうちに、大スターであるジャイアントパンダの影に隠れがちな彼らに会いに行きたくなってきました。

(ミ・ナミ)